コラム

娘の言葉はウソだ...苦しむ「宗教2世」の会見場に届いた、両親からの「悪夢の手紙」

2022年11月09日(水)17時57分
西村カリン(ジャーナリスト)
宗教2世記者会見

YOSHIO TSUNODA/AFLO

<あまりにショッキングな手紙を受け、会見の司会を務めていた私は言葉が出なくなったが、本人と夫は強い意志で会見を続けた>

フランス人記者の私は日本外国特派員協会のレギュラー会員で時々、記者会見の司会を務める。基本的にそれほど難しい仕事ではない。記者会見をする人と打ち合わせをし、会見の流れを確認した上で、参加者を紹介する、冒頭の説明が長くならないよう時間を管理する、質問する記者を選ぶ、自分も質問するといった役割をこなす。

それが最近、悪夢でも見たことのないような事件が起きた。10月7日、SNSでも話題になった小川さゆり(仮名)さんの記者会見でのことだ。26歳の彼女は宗教2世で、6年前に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を脱会した。両親は今も信者だ。信者の子供としての自らの大変な経験を語るだけでなく、アンケート調査した宗教2世の被害の実態を報告することも会見の目的だった。内容は説得力があり、興味深いものだった。

ところが記者会見の開始から45分くらいたった頃に突然、外国特派員協会のスタッフが私のところに来て、2枚のファクスを見せた。宛先は外国特派員協会で、1枚目は英語で書いてあり、送信者は小川さんの両親。もう1枚は日本語で、旧統一教会の弁護士からだった。

内容はほぼ同じで、要するに、小川さんがマスコミに言うことは嘘なので記者会見を中止するようにと求めるものだった。要請を無視すれば、外国特派員協会に対して法的手続きを検討するという脅しも含まれていた。

「どうかこの団体を解散させてください」

それを読んで私はかなりショックを受けた。外国特派員協会の会見では司会者は英語で話さなければいけないが、私の母語ではないので、言葉が全く出なくなった。しかし、何をすればいいかをスタッフとやりとりし、早く決定しないといけなかった。

旧統一教会や両親からの圧力は無視し、記者会見を継続すべきだと私は思った。隣にいる小川さんの夫に相談したら、彼も同じ考えだった。当然だが、小川さんにとってはあまりにもショックな出来事だ。それでも彼女は会見を中止せず、さらに強いメッセージを出し、「私が正しいと思ってくださるなら、どうかこの団体を解散させてください」と語った。

私は7月末頃から何人もの宗教2世に取材をしたが、いかにつらい経験だったかを全員が教えてくれた。旧統一教会以外の宗教団体の信者の子供も、精神的な虐待や人権侵害を受けたという証言が多数あった。自分を含め、なぜもっと早くこの深刻な問題に気付かなかったのか、罪悪感を覚える。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

24年ブラジル基礎的財政収支、GDP比0.36%の

ビジネス

ブラックストーン、10─12月手数料収入が過去最高

ビジネス

USスチール、第4四半期決算は減収・赤字 需要環境

ワールド

ロシア、ウクライナの集合住宅にドローン攻撃 9人死
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story