行動経済学の「理論」が当てはまらない、日本社会の「特殊すぎる」事情
電車と駅でのアナウンスについて考えてみよう。接近メロディー、発車メロディー、発車ベル。電車が接近します、発車します、扉が閉まりますといった駅員の案内。
忘れ物注意のアナウンスでは、こういうものもある。「本日は雨のため、傘のお忘れ物が大変多くなっております。お手回り品と合わせてご確認ください」。それに、これ。「最近お忘れ物が多くなっています。特に網棚にあげたお荷物、お忘れがちです。網棚のお荷物はお持ちでしょうか」
くれぐれもクレームが寄せられないようにという理屈は分かるが、日本がどれだけ父親的温情主義社会かが垣間見える。
このアナウンス社会にナッジ理論を取り入れようとするなら、本来であれば、「過剰なアナウンスを聞かない自由」を生み出した上で、人々を良い方向に「突く」べき。でもそうなるとは考えにくい。
むしろ想像できるのは、過剰なアナウンスを維持したまま、あれにもこれにも注意するよう、乗客にさらなる「突き」を加えることだ。
行動経済学に取り組んでいる方、いかがでしょうか。ナッジが突きばかりにならないように、ね(ナッジ、ナッジ)。
トニー・ラズロ
TONY LÁSZLÓ
1960年、米ニュージャージー州生まれ。1985年から日本を拠点にジャーナリスト、講師として活動。コミックエッセー『ダーリンは外国人』(小栗左多里&トニー・ラズロ)の主人公。

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