コラム

「軍事政権化」したトランプ政権

2017年04月10日(月)16時30分

トランプ政権は「軍事政権化」したのか?

「軍出身派」が安全保障政策の中心に座ることになったことだけで、トランプ政権が「軍事政権化」したということは出来ない。しかし、軍出身者が意思決定に重大な影響をもたらすことになったことと、大統領が信頼を置くクシュナーが軍出身派との関係を緊密にしたこと、また、トランプ大統領も「力による平和」を志向する傾向が強いことを考えると、国際社会における問題に対して外交や交渉による解決ではなく、軍事的な解決を優先する、という傾向が一層強まったということは言えるだろう。

その傾向は、もう一方の外交による国際問題の解決の軽視という点からも認められる。国務省はトランプ政権が発足して以来、政策決定過程からは遠ざけられ、国務省の職員はやることもなく食堂でコーヒーばかり飲んでいるとも報じられたことがある 。

また、国務省に限らないが、主要な政策ポストが指名承認どころか、全く指名されてもいない状況で、省内に残った職員が代行しているという状況で、重要な意思決定や情報提供が出来ない状況にある。さらに多くの大使ポストが空席のままであるため、同盟国などとの連絡調整もうまくいっていない状況である。そんな中、対外政策のほとんどはホワイトハウスが中心になって取り仕切っている。先日の米中首脳会議も、中国との交渉窓口であるクシュナーが取り仕切ったといわれている

つまり、トランプ政権の外交・安保政策はホワイトハウスが中心となり、外交的な問題解決や他国との調整など、時間がかかる解決ではなく、軍出身者が中心となって軍事的手段による解決を提供することで、大統領の意向を反映するという構造になっている。

視聴覚資料に影響されやすい大統領、軍事的解決は提供できるが外交的解決は好まないホワイトハウス、政策決定の過程から干された国務省。この組み合わせから見る限り、トランプ政権の外交・安保政策は「軍事政権化」していると見ても言い過ぎではないだろう。

トランプ外交の今後

「軍事政権化」し、外交的な解決ではなく、軍事的手段によって問題解決を求め、米中首脳会談の最中にアサド政権の空軍施設をミサイル攻撃したトランプ政権は、今後どのような外交・安保政策を展開していくのであろうか。

まず日本にとってもっとも懸念すべき問題は北朝鮮への対応である。「軍事政権化」したトランプ政権は、これまで全く進展してこなかった六ヶ国協議や米朝対話といった交渉による解決に対して積極的な姿勢を見せるとは考えにくい。実際、日米首脳会談の最中に北朝鮮がミサイル発射を試みて以来、トランプ大統領の北朝鮮に対する発言は攻撃的なものが多く、ディールメーカーとして自らの手腕を発揮するという就任前のニュアンスは一切なくなっている。米中首脳会談の前には「もし中国が北朝鮮問題を解決しないなら、我々がする」とインタビューで述べている

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

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