コラム

「軍事政権化」したトランプ政権

2017年04月10日(月)16時30分

このバノンとクシュナーの関係が悪化しているというのは、バノンがかつて編集長を務めたオルタナ右翼(Alt-right)サイトであるブライトバートが反クシュナーの記事を多数掲載していることからも読み取ることが出来る。

また、トランプ大統領はブライトバートなどのオルタナ右翼の情報を好んで目にすることでも知られており、オバマ政権によるトランプタワーの盗聴騒ぎもオルタナ右翼のメディアから流れてきた情報が元になっていると見られている 。トランプ大統領が信頼を寄せるクシュナーを批判する記事をブライトバートが掲載し、バノンがその論調を主導しているとなれば、大統領のバノンに対する信頼も失われていったと想像することは難しくない。

さらに、シリア空爆の直前、クシュナーは自らの担当である中東和平問題に深く関わるエジプトのシーシ大統領が訪米しているにもかかわらず、統合参謀本部議長のダンフォードに付き添われてイラクのアメリカ軍の展開状況を視察にいっていた。これは、クシュナーが自らの所掌よりも軍・国防総省の意向を優先して行動したことを意味する。つまり、バノンとの関係が悪化しているクシュナーをダンフォード統合参謀本部議長、マティス国防長官、そして彼らと盟友関係にあるマクマスター安保担当大統領補佐官が取り込んでいったというのも違和感なく受け入れられる。

つまり、こうした一連のホワイトハウス内の力学の変化は、トランプ政権の性格がバノンやその補佐役のスティーブ・ミラー(バノンとミラーが大統領就任式の演説原稿を執筆したと言われる)、そしてバノン同様、ブライトバートからホワイトハウス入りしたセバスチャン・ゴルカなどの「オルタナ右翼派」の影響力をそぎ落とし、マクマスター、マティス、ダンフォードなどの軍出身者の影響力が増大したことを意味する。特に、バノンがNSCの中核メンバーだったときは、国家情報長官のコーツと統合参謀本部議長のダンフォードはNSCから外されていたが、バノンの退任と入れ替わりにNSC中核メンバーに入ることとなった。

また、プリーバス首席補佐官を中心とした「共和党主流派」と言われる人たちは医療保険制度改革(いわゆるオバマケア撤廃と代替)で失敗したことでトランプ大統領の信用を失っている。プリーバスはその職に残るとみられているが、すでに副首席補佐官であったケイティ・ウォルシュはその職を追われている

言い換えればホワイトハウスの力学は「オルタナ右翼派」+「主流派」から「軍出身派」に移ったのである。その直後のシリア空爆であった。標題の「軍事政権化」というのは、こうした意思決定の中心に軍出身者が座り、対外的な問題解決を軍事的な手段で解決する傾向が強まるということを意味する。通常使われる「軍事政権」、つまり軍事的な手段で国内の秩序を維持し、独裁的な政権を作るという意味ではない。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story