「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥
DISASTER AT THE BORDER
奇襲攻撃当日、境界地帯の複数地点で立ち上る煙を捉えた衛星画像 GALLO IMAGESーORBITAL HORIZON/GETTY IMAGES
<2500人のローテクなハマス兵がイスラエルの最先端の軍事技術と通信傍受をやすやすと突破、アメリカとその同盟国の安全保障に突きつける衝撃の現実とは?>
パレスチナ自治区のガザ地区は、自由な出入りができず、住民が逐一監視され、「世界最大の野外刑務所」と呼ばれてきた。
ガザを取り囲む約60キロの壁には、無数の監視カメラや自律型兵器が設置されている。
周辺にはイスラエル軍の基地が点在していて、最先端の武器を持った兵士たちがいつでも出動できる態勢にある。さらにガザでやりとりされる電話やメッセージや電子メールは、イスラエルの電子情報網によって逐一傍受されている。
この防衛網の基礎を成す技術は、米軍がアメリカの市民や国益を守るために、そしてNATO軍がロシアや中東との境界を監視するために使っている技術とほぼ同じだ。
それだけに10月7日、イスラム組織ハマスのメンバー2500人以上がこの防衛網を突破して、イスラエル側で約1200人を殺害し、約240人の人質を取った事件には、イスラエルの国民や軍事専門家だけでなく、米国防総省をはじめ多くの国の安全保障関係者が衝撃を受けた。
最先端技術を駆使したイスラエルの防衛システムが、ハマスのような比較的「ローテク」のテロ組織の攻撃を防げないなら、ロシアや中国など先端技術を持つ敵国は、アメリカや世界にどれだけ大きな混乱をもたらせるだろう。
イスラエルの技術的優位の象徴と考えられてきた壁が、急に欠陥だらけのザルのように感じられるようになった。
「米国防総省はとてつもなく大きな教訓を得た」と、ブルッキングス研究所のエイミー・ネルソン研究員は語る。
「最先端の防衛技術と最も近代的な軍を持つ国が、実戦に勝利するとは限らない。それでも奇襲を受ける可能性はある」
一部の専門家が指摘するのは、テクノロジーへの過剰依存だ。
実際、アメリカにとって最大の教訓は、先端技術は人間の代わりにはならないということだろう。
軍と安全保障高官らは、侵入者の撃退、ミサイルによる抑止、そして敵の盗聴という3つの重要領域でイスラエルがどのようなミスを犯したのか究明しようと躍起になっている。
「イスラエル軍は中東で最強であり、技術的にも最高レベルだ」と、民主主義防衛財団軍事・政治権力センターのブラッドリー・ボーマン上級ディレクターは語る。
「それなのに旧式の技術しか持たない敵が、1日の死者数ではホロコースト以来となるユダヤ人虐殺をどうやって成し遂げたのか調査が進んでいる」