「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥
DISASTER AT THE BORDER
最新鋭戦車の盲点を突く
3つ目の機能不全は通信傍受体制だ。
イスラエルはガザ内部の通話を残らず傍受し、あらゆる電子通信を監視している。
潜在的攻撃の初期兆候は盗聴で察知できると信じていたからだ。その前提には、戦闘員が噂話をするはずだとの想定があった。
ハマスはイスラエルの通信傍受能力を逆手に取ったらしい。
攻撃計画に関するやりとりを対面に限定するだけでなく、電話での会話では意図的に、イスラエルとの対立は望まないと示唆していた。
こうした状況のなか、イスラエル軍はハマス戦闘員の侵入に2時間近くも気付かなかった。
重大危機発生の警報を発令したのは6時間後だ。
攻撃開始後の早い段階で、戦闘員はイスラエル軍のメルカバ戦車1両と対峙している。世界最新鋭の戦車の1つで、強力な機関銃を複数搭載し、高度な照準装置や最先端の装甲防御力を備えており、戦闘員を簡単に抑え込めるはずだった。
だが、メルカバは即座に爆破された。
ハマス戦闘員は、ロシア軍戦車を破壊するウクライナ軍と同様、市販されている小型ドローンから手榴弾を投下した。次に現れたメルカバも同じ目に遭った(その後、イスラエル軍はロシア軍に倣い、手榴弾防止のため砲塔の上に即席の屋根を装着した)。
世に名高いイスラエルのハイテク防御はうまく機能せず、システム全体の崩壊につながったのだ。
だがイスラエルの防御力を疑問視する声が出た理由は、何より時間単位での対応の遅れだった。
まとまった規模のイスラエル軍部隊が現地に到着するまでに約8時間かかり、最後に残ったハマスの戦闘員と対峙するまでに20時間もかかった。
「今後は『キルチェーン』(敵の発見から撃破に至る一連のプロセス)を最速で完了することが、戦場における交戦で勝利するカギになるだろう」と、ボーマンは語る。
「つまり、いかに素早く敵の行動を察知し、対応方法を決断し、実行に移せるかが重要となる。秒、分単位の違いが生死を分かつことになる」
その視点から見ると、今回イスラエルのハイテク防衛はきちんと機能しなかったと、彼は言う。事実、完全制圧までにかかった時間は約1200分だ。