「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥
DISASTER AT THE BORDER
完全な不意打ちを食らった
イスラエルがガザの周囲に張り巡らせた壁は、ハマスの攻撃を不可能にしたはずだった。
ところが10月7日の奇襲攻撃では、大量のハマスの戦闘員が壁を突破して、ほぼ抵抗に遭うこともなく数時間にわたってイスラエルで暴れ、200人を超える人質を連れて再び壁を越えてガザに戻った。
「イスラエルは世界でも指折りの情報収集スシステムを持っているはずだ」と、コロラド大学国家安全保障イニシアチブセンターのイアン・ボイド所長は言う。
「それなのに完全な不意打ちを食らった」
イスラエルが10億ドル以上を投じて、ガザを取り囲む壁を完成させたのは2021年のこと。
別名アイアンウォール(「鉄壁」)は、コンクリートや鉄条網を組み合わせた高さ6メートルの壁で、トンネルを阻止するため地下にも及ぶ。
壁の周辺には数百台の暗視カメラや熱センサーなど、異常を探知するためのハイテク機器がこれでもかと配置されている。
さらに陸では移動型ロボットが、空からは小型飛行船やドローン(無人機)が随時監視の目を光らせている。
壁に設置された機関銃は遠隔操作が可能なほか、センサーからの警告を受けてAI(人工知能)が自動的に照準を合わせて発射するタイプもある。
従って数千人もの戦闘員が、爆発物や重機を携えてこの壁を突破するなどということは、絶対にあり得ないと考えられていた。
理論的には、センサーが異常を探知すると、最寄りのイスラエル軍の基地の警報が鳴り、兵士たちがコントロールパネルに駆け付けて、監視カメラやドローンの映像を確認する。
その上で兵士や戦車や航空機が出動して、あらゆる制圧措置が取られる。他の基地にも応援要請が出て、さらに大規模な対抗策が取られる。
また、壁に取り付けられた機関銃が遠隔操作されたり、手榴弾や小型ミサイルが発射されたりして、武装勢力を攻撃する──。
この「鉄壁」の守りを、どのように打ち砕いたのか。
詳しいことは今も多くが不明だと、専門家は強調する。これまでのところ、イスラエル側が公表した情報は皆無に近い。
だが、奇襲攻撃のカギとなった要素は複数判明している。本誌が話を聞いた専門家らによれば、あの日の事件はおそらく次のように起きた。
10月7日早朝、ハマス戦闘員は境界の約30カ所で、ブルドーザーや爆薬を用いて防壁に穴を開けた。その隙間から、多くがバイクや自動車で侵入する一方、電動パラグライダーで防壁を越えた者もいた。