中国が南シナ海全域で、海底から大量の「砂」をかき集めまくっている理由
THE GREAT SAND GRAB
一番いいのは川から採取した砂だ。ある程度ゴツゴツしているため、セメントと混ざりやすい。建設に適した砂が身近になければ、購入するしかない。シンガポールは莫大な金を払って近隣諸国から5億トン以上の砂を輸入してきた。
砂を採取するのは、中国の大型船ばかりではない。インドでは、バケツを手にした人が危険なほど深くまで河川を潜って砂を採取している。ケニアではシャベルで砂を採取していた人が、岩壁の崩壊に巻き込まれる事故も起きている。彼らにとって砂の採取は命懸けの仕事なのだ。
暗躍する砂マフィアの恐怖
違法組織がはびこっている地域もある。大きな利益が見込める砂ビジネスは、政府の「盲点だ」とペレイラは指摘する。「重要な資源なのに、誰がどれだけ採取したか全く記録されていない。だから違法活動の温床になりやすい」
インドでは、砂マフィアが業界の一部を支配している。政治家や金持ちのビジネスパーソンが絡む強力なネットワークだ。「彼らは政界に強いコネを持ち、さまざまな地方で砂ビジネスを支配している」とペレイラは語る。「縄張り意識が非常に強いため、よそ者が入ってくると、容赦なくたたきつぶすこともある」
インドではこの2年で、違法な砂採取活動に関連した死が200件近くあった。砂マフィアに盾突く人は、「襲われたり殺されたり、仕事を奪われたりする」と、印アワーズ財団の創設者スマイラ・アブドゥラリは語る。「だからみんな怖がって告発しない」
各国の規制がバラバラな上に、届け出をせずに採取をしている業者も多いため、世界的なモニタリングは事実上存在しない。国連は19年、セメントの生産量を頼りに、世界の砂の使用量は年間40億トン以上との見方を示した。これは破滅的なインパクトを与えかねない規模だ。「自然がどうにかできるレベルではない。極めて劇的な変化を固定化させる恐れがある」と、ペレイラは警告する。
実際、一部のダメージは既に定着している。例えば、砂の乱採取により、少なくとも24の島や岩礁が地図から消えた。ベトナムではメコン川が枯渇して生態系がダメージを受け、川岸は破壊された。モザンビークでは、かつて青々と木が茂っていたビーチから緑が消え、深刻な水害に見舞われるリスクが高くなった。