最新記事

経済制裁

ロシア経済悪化の他国・地域への影響

2022年3月15日(火)14時05分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

ロシアでの事業を一時停止すると発表したイケアに殺到した客(3月3日、モスクワ) REUTERS

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2022年03月09日付)からの転載です。

1――要旨

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、西側諸国が経済・金融制裁を科したことでロシア経済の落ち込みが想定される。また、その反作用として西側諸国自身が受ける影響もあると見られる。

本稿では、国際産業連関表を用いてロシアとその他の国々の経済的なつながりを把握することで、世界の各国・地域におけるロシア経済低迷の反作用がどの程度ありそうかを定量的に把握したい。

得られた主な結果は以下の通りである。




・ロシア経済の落ち込みの他国・地域への影響は、「(1)ロシアの供給減少による影響」と「(2)ロシアの需要減少による影響」の2つに分けられる

・経済規模対比でみた「(1)ロシアの供給減少による影響」は、チェコやトルコといった国への影響が大きい。次いでイタリアやドイツといったユーロ圏の国々や韓国が上位に位置する。一方、米国やオーストラリアの影響度は主要国のなかでもかなり小さい。

・「(2)ロシアの需要減少」の影響度合いは「(1)ロシアの供給減少」の影響度合いに類似している。

・定量的には、例えば、仮にロシアの全産業で一律に10%の供給が止まったとすると、比較的影響の大きいユーロ圏で経済対比0.071%の最終需要が減る程度の関係である。

・ただし、これは「反作用」の定量評価としては過小評価である可能性が高い。負の供給ショックがもたらす物価上昇や生産量の減少は加味していない。供給ショックが波及する過程で川上の供給不足以上に川下の最終需要が減少する可能性もある。

・また、経済・金融制裁によって産業連関構造が大きく変化し、制裁国である西側諸国とのつながりは縮小する一方で、それ以外の地域とのつながりがむしろ拡大する(ロシアからの供給が増える)といった変化が想定される点にも留意する必要がある。

・なお、川上の供給不足以上に川下の最終需要が減る可能性を一定加味した試算も行ってみた。その結果、影響度合いが大きい国は、チェコやトルコ、イタリア、ドイツ、韓国といった国となっている。

2――付加価値でみた地域間の取引

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、西側諸国が経済・金融制裁を課したことでロシア経済の落ち込みが想定されるとともに、その反作用として西側諸国自身が受ける影響も小さくないと考えられる。

現時点で経済への影響を把握することは容易ではないが、本稿では、国際産業連関表を用いてロシアとその他の国々の経済的なつながりを把握することで、世界の各国・地域におけるロシア経済低迷の反作用がどの程度ありそうかを定量的に把握したい1。

なお、本稿では2018年の産業連関構造を前提としているが、実際には経済・金融制裁によってサプライチェーンが再構築され、産業連関構造は大幅に変化すると見られる。また需給バランスの崩れからインフレを通じて各国の産業に幅広い影響が及ぶことも想定される。そのため、本稿の分析結果がそのまま影響度の違いとして顕在化するとは言えないが、経済への影響を見る上でのヒントにはなると考えている。

────────────────
1 国際産業連関表を作成・公表している団体は複数あるが、本稿はOECDの公表する国際産業連関表(OECD Inter-Country Input-Output (ICIO) Tables)〔2021年度版〕を基に分析している。OECDが公表する最新の産業連関表は2018年が対象である。また、作成される国際産業連関表は、公表主体によってその数値に差異が生じる点などには留意する必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中