最新記事

経済制裁

ロシア経済悪化の他国・地域への影響

2022年3月15日(火)14時05分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

なお、図表2ではロシアの産業別の付加価値を示している。ロシアが世界でも主要なエネルギー供給先ということもあり、鉱業による付加価値が多く輸出されていることも読み取れる。

nissai20220314232101.jpg

nissai20220314232102.jpg

3 トルコは外務省などでは中東として分類されているが、本稿では欧州として扱っている。

2|ロシアの最終需要の付加価値構造(川上への影響)

次に「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」については図表3のような関係にある。

ロシアの最終需要1兆4290億ドルのうち、3010億ドル(21.1%)が海外の付加価値で構成されている。さらにそのうちの42.8%にあたる1290億がユーロ圏を中心とする欧州の付加価値であり、こちらもデータからも欧州との結びつきが深いことが分かる。中国が470億ドルと大きいことも同じである。なお、米国については若干ではあるが、1)の結びつきより2)の結びつきの方が大きい。これは米国が生産のための原材料をあまりロシアに依存していない一方で、ロシア向けのモノ・サービスを多く提供していることを示唆している。例えば、ロシアで販売されるアップルのスマートフォンやパソコン、あるいはロシアで利用できるビザやマスターカードといった決済サービスの付加価値の一部が米国産であることなどはイメージしやすい。そして、これらの企業はいずれも、ロシアのウクライナ侵攻を受けてモノ・サービスのロシアでの提供を停止している。

また、各国・地域の経済規模(付加価値)比でみた影響度合いは図表4のようになる。経済規模比でみた影響度合いの大きさは、(1)でみた図表2で見た影響度合いと類似していることが分かる。

nissai20220314232103.jpg

nissai2022031423210304.jpg

3――影響度合いの評価

前節で見たように、「(1)ロシアで供給されるモノ・サービスがどの国・地域で使われているか」、および「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」については特に欧州の結びつきが強いことが分かった。

ここで改めて、図表2の数値の意味を考えて見る。これは「ロシアからの供給が完全にとまった際、各国・地域でのどれだけのモノ・サービスが利用できなくなるか(最終需要がどれだけ減るか)を示している」と解釈できる。例えば、ユーロ圏では経済規模対比で0.71%の最終需要が減ることになる。今回の経済・金融制裁でロシアの供給が完全にとまることは考えにくいが、仮にロシアの全産業で一律に10%の供給が止まったとすると、ロシアからの供給量が10分の1に減るため、例えばユーロ圏では経済対比0.071%の最終需要が減る、と解釈できることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中