ロシア経済悪化の他国・地域への影響
なお、図表2ではロシアの産業別の付加価値を示している。ロシアが世界でも主要なエネルギー供給先ということもあり、鉱業による付加価値が多く輸出されていることも読み取れる。
3 トルコは外務省などでは中東として分類されているが、本稿では欧州として扱っている。
2|ロシアの最終需要の付加価値構造(川上への影響)
次に「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」については図表3のような関係にある。
ロシアの最終需要1兆4290億ドルのうち、3010億ドル(21.1%)が海外の付加価値で構成されている。さらにそのうちの42.8%にあたる1290億がユーロ圏を中心とする欧州の付加価値であり、こちらもデータからも欧州との結びつきが深いことが分かる。中国が470億ドルと大きいことも同じである。なお、米国については若干ではあるが、1)の結びつきより2)の結びつきの方が大きい。これは米国が生産のための原材料をあまりロシアに依存していない一方で、ロシア向けのモノ・サービスを多く提供していることを示唆している。例えば、ロシアで販売されるアップルのスマートフォンやパソコン、あるいはロシアで利用できるビザやマスターカードといった決済サービスの付加価値の一部が米国産であることなどはイメージしやすい。そして、これらの企業はいずれも、ロシアのウクライナ侵攻を受けてモノ・サービスのロシアでの提供を停止している。
また、各国・地域の経済規模(付加価値)比でみた影響度合いは図表4のようになる。経済規模比でみた影響度合いの大きさは、(1)でみた図表2で見た影響度合いと類似していることが分かる。
3――影響度合いの評価
前節で見たように、「(1)ロシアで供給されるモノ・サービスがどの国・地域で使われているか」、および「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」については特に欧州の結びつきが強いことが分かった。
ここで改めて、図表2の数値の意味を考えて見る。これは「ロシアからの供給が完全にとまった際、各国・地域でのどれだけのモノ・サービスが利用できなくなるか(最終需要がどれだけ減るか)を示している」と解釈できる。例えば、ユーロ圏では経済規模対比で0.71%の最終需要が減ることになる。今回の経済・金融制裁でロシアの供給が完全にとまることは考えにくいが、仮にロシアの全産業で一律に10%の供給が止まったとすると、ロシアからの供給量が10分の1に減るため、例えばユーロ圏では経済対比0.071%の最終需要が減る、と解釈できることになる。