ロシア経済悪化の他国・地域への影響
そこで、本稿では、国際産業連関表を用いて以下の2種類の構造を調査する。
ひとつは、「(1)ロシアで供給されるモノ・サービスがどの国・地域で使われているか」、次が「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」である。
(1)はロシアからの輸入、(2)はロシアへの輸出に類似した概念だが、本稿では付加価値(最終需要)に着目しており、端的には、付加価値ベースで見た際の「ロシア産商品の消費地((1))」と「ロシアで消費される商品の原産地((2))」のようなものである2。
1 国際産業連関表を作成・公表している団体は複数あるが、本稿はOECDの公表する国際産業連関表(OECD Inter-Country Input-Output (ICIO) Tables)〔2021年度版〕を基に分析している。OECDが公表する最新の産業連関表は2018年が対象である。また、作成される国際産業連関表は、公表主体によってその数値に差異が生じる点などには留意する必要がある。
2 具体的には、(国・産業別の(1)の金額の列ベクトル)=(最終需要率の対角行列)×(ゴーシュ逆行列(の転置))×(付加価値の列ベクトルのうちロシア分)、(国・産業別の(2)の金額の列ベクトル)=(付加価値率の対角行列)×(レオンチェフ逆行列)×(最終需要の列ベクトルのうちロシア分)である。
1|ロシアの付加価値の供給先(川下への影響)
さて、まず(1)については図表1のような関係にある。ロシアが生み出す付加価値1兆5920億ドルのうち、3710億ドル(23.2%)が海外で消費や投資に使われている。さらにそのうちの41.6%にあたる1540億がユーロ圏を中心とする欧州の最終需要であり、欧州との結びつきが深いことが分かる。それ以外では中国が670億と大きい。また、ロシアではエネルギーに関する付加価値を多く供給しており、幅広い国へ付加価値が供給されているのも特徴的と言える。
したがって、ロシアの供給が滞るとユーロ圏を中心にその分の需要ができなくなる。図表1で金額ベースでの大まかな影響が把握できるが、経済規模の大きい国・地域ほど金額ベースの影響も大きくなることが想像される。そこで、各国・地域の経済規模(最終需要)と比較してどの程度の影響度合いかをみたものが図表2となる。
この図表からは、経済規模対比でチェコやトルコ3といった国への影響が大きいことが分かる。次いでイタリアやドイツといったユーロ圏の国々や韓国が影響度では上位に位置する。一方、米国やオーストラリアの影響度は主要国のなかでもかなり小さいと言える。
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2 具体的には、(国・産業別の(1)の金額の列ベクトル)=(最終需要率の対角行列)×(ゴーシュ逆行列(の転置))×(付加価値の列ベクトルのうちロシア分)、(国・産業別の(2)の金額の列ベクトル)=(付加価値率の対角行列)×(レオンチェフ逆行列)×(最終需要の列ベクトルのうちロシア分)である。