最新記事

経済制裁

ロシア経済悪化の他国・地域への影響

2022年3月15日(火)14時05分
高山武士(ニッセイ基礎研究所)


そこで、本稿では、国際産業連関表を用いて以下の2種類の構造を調査する。

ひとつは、「(1)ロシアで供給されるモノ・サービスがどの国・地域で使われているか」、次が「(2)ロシアで需要されるモノ・サービスがどの国・地域で生み出されたものか」である。

(1)はロシアからの輸入、(2)はロシアへの輸出に類似した概念だが、本稿では付加価値(最終需要)に着目しており、端的には、付加価値ベースで見た際の「ロシア産商品の消費地((1))」と「ロシアで消費される商品の原産地((2))」のようなものである2。

1 国際産業連関表を作成・公表している団体は複数あるが、本稿はOECDの公表する国際産業連関表(OECD Inter-Country Input-Output (ICIO) Tables)〔2021年度版〕を基に分析している。OECDが公表する最新の産業連関表は2018年が対象である。また、作成される国際産業連関表は、公表主体によってその数値に差異が生じる点などには留意する必要がある。

2 具体的には、(国・産業別の(1)の金額の列ベクトル)=(最終需要率の対角行列)×(ゴーシュ逆行列(の転置))×(付加価値の列ベクトルのうちロシア分)、(国・産業別の(2)の金額の列ベクトル)=(付加価値率の対角行列)×(レオンチェフ逆行列)×(最終需要の列ベクトルのうちロシア分)である。

1|ロシアの付加価値の供給先(川下への影響)

さて、まず(1)については図表1のような関係にある。ロシアが生み出す付加価値1兆5920億ドルのうち、3710億ドル(23.2%)が海外で消費や投資に使われている。さらにそのうちの41.6%にあたる1540億がユーロ圏を中心とする欧州の最終需要であり、欧州との結びつきが深いことが分かる。それ以外では中国が670億と大きい。また、ロシアではエネルギーに関する付加価値を多く供給しており、幅広い国へ付加価値が供給されているのも特徴的と言える。

したがって、ロシアの供給が滞るとユーロ圏を中心にその分の需要ができなくなる。図表1で金額ベースでの大まかな影響が把握できるが、経済規模の大きい国・地域ほど金額ベースの影響も大きくなることが想像される。そこで、各国・地域の経済規模(最終需要)と比較してどの程度の影響度合いかをみたものが図表2となる。

この図表からは、経済規模対比でチェコやトルコ3といった国への影響が大きいことが分かる。次いでイタリアやドイツといったユーロ圏の国々や韓国が影響度では上位に位置する。一方、米国やオーストラリアの影響度は主要国のなかでもかなり小さいと言える。

────────────────
2 具体的には、(国・産業別の(1)の金額の列ベクトル)=(最終需要率の対角行列)×(ゴーシュ逆行列(の転置))×(付加価値の列ベクトルのうちロシア分)、(国・産業別の(2)の金額の列ベクトル)=(付加価値率の対角行列)×(レオンチェフ逆行列)×(最終需要の列ベクトルのうちロシア分)である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、日本産食品の輸入規制を全て撤廃

ワールド

英政府借入額、4─10月はコロナ禍除き最高 財政赤

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、11月速報値は52.4 堅調さ

ビジネス

英総合PMI、11月速報値は50.5に低下 予算案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中