737MAX墜落事故の犠牲者家族に、ボーイング幹部が言い放った心ない言葉
REMEMBER THE MAX CRASH
3月10日、エチオピアのスカイライトホテル373号室は26の国からやって来た遺族でいっぱいになった。墜落後の数日間、遺族が集められた部屋だった。事故の後、積極的な活動や無数の電子メール、チャットのスレッドを介して、遺族たちは互いの絆を深めていた。
追悼式典は墜落現場の仮設テントで開催され、地面には10万本以上のバラの花が敷き詰められた。遺族の望みどおり、ボーイングからは誰も同席しなかった。
式典を企画して遺族を呼び集めたボーイングの名をあえて挙げることなく、遺族たちの代表が犠牲者追悼の辞を読み上げ、その後、6分43秒(離陸から墜落までの飛行時間)の黙禱を行った。
それから、事故の犠牲者それぞれのための小さな鉢を木箱に並べ、種を植えた。唯一の不協和音は、現場の周囲に新しく設置された鎖で連結されたフェンスだった。「会社側は、遺族が入り込んで遺骨を掘り出すことを恐れている」。ボーイングに雇われたイベントプランナーは、サミヤの母ナディアにそう話した。
皮肉にもパンデミックで「名誉回復」
遺族たちが自宅に戻ると、世界はすっかり変わっていた。20年3月11日、アメリカではNBAが残り試合全ての中止を決定。俳優トム・ハンクスは自分と妻が新型コロナウイルスに感染したと発表した。これでみんな、事態の深刻さを実感した。劇場もコンサート会場も、酒場も食堂も空っぽになり、代わりに集中治療室がいっぱいになった。あちこちで外出禁止令が出た。誰にとっても初めての経験だった。
しかしマイケルとナディアは少しも怖くなかった。最愛の娘を失い、冷血漢を相手につらい交渉もしてきた夫妻は、既に地獄を見ていた。
翌4月にはロックダウン(都市封鎖)が世界中に広がった。人の移動は、前年同期比で実に95%も落ち込んだ。世界中の旅客機の3分の2は駐機場で眠ったまま。ボーイング社への発注は止まり、この年だけで1000機以上のキャンセルが出た。B737MAXの在庫は400機に積み上がったが、買ってくれる航空会社はなかった。それに、事故から1年たってもMAXの運航再開許可は下りていなかった(その後、アメリカでは20年12月に運航再開)。
皮肉なもので、ボーイングは新型コロナウイルスのパンデミックで救われた。感染者が増え続けるなかでB737MAXの「不具合」話は忘れられた。大企業経営者の冷血な計算式では、世界規模の悲劇も自社のチャンスに変えられる。ボーイングはもはや、粗雑な管理体制で多くの人命を奪った悪徳企業ではなくなっていた。国家的な非常事態ゆえに商機を失い、何万もの従業員の雇用を守るために悪戦苦闘しているアメリカ製造業の代名詞になっていた。当時の大統領ドナルド・トランプは言ったものだ。「ボーイングをつぶすわけにはいかない」と。
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