737MAX墜落事故の犠牲者家族に、ボーイング幹部が言い放った心ない言葉
REMEMBER THE MAX CRASH
ボーイングの工場で製造中の737MAX。5カ月の間に2度の墜落事故を起こした AP/AFLO
<義援金と追悼式典をめぐって遺族の気持ちを逆なでするボーイングの対応は、事故の原因となった「欠陥ソフト」を世に出した企業風土を物語る>
ボーイング737MAXの初号機がデビューしたのは2015年12月。世界に冠たる名門航空機製造会社ボーイングの、夢と期待(と莫大な利益)を懸けた最新鋭機だ。それは最先端の技術を詰め込み、需要の高まる小型機市場で「最高の燃費効率と信頼性、そして最高の乗り心地」を提供するはずだった。
しかし、その夢は立て続けに起きた2つの悲劇によってついえた。MCAS(操縦特性補助システム)という飛行制御ソフトの不備で機首が上がりすぎ、しかも操縦士は自動制御を解除できず、手動で操縦できなかった。18年10月28日にはライオン航空610便が、翌年3月10日にはエチオピア航空302便が墜落し、両機合わせて346人の乗客乗員が死亡した。前者は離陸から約12分後、後者は約7分後の出来事だった。
ジャーナリストのピーター・ロビソンは新著『フライング・ブラインド(盲目飛行)』で、なぜMCASの不具合が見逃されたのか、ボーイングの安全対策や企業体質に問題はなかったのかを深く掘り下げた。
以下の抜粋では、エチオピア航空302便の犠牲者追悼行事に当たり、遺族に寄り添うどころか自社の利益を優先した巨大企業の知られざる姿を描いた部分を紹介する。
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世界が新型コロナウイルスのパンデミックにのみ込まれる直前の2020年初頭、ボーイングの関係者は3月10日(エチオピア航空302便墜落事故から1年の日)を控えて緊張していた。737MAXの問題が蒸し返され、企業イメージが傷つく心配があったからだ。
表向き、追悼行事は遺族たちの意向に沿って行われることになっていた。費用は、もちろん会社が負担する。しかし話し合いを進めるなかで、遺族側の不信感は募る一方だった。
1月下旬、ボーイングの当時の政府対応部門トップ、ティム・キーティングとその補佐ジェニファー・ロウはエチオピア航空本社で遺族との協議に臨んだ。そこはアディスアベバ空港に隣接する官庁のような地味なオフィスビルだが、集まった会議室だけは明るい海の色の壁だった。
遺族たちは耳を疑った
カトリック系の米スクラントン大学出身のキーティングは、心の広い聖職者のような口調で話し始めた。わが社は遺族にとって有意義な行事となるよう、何でもするつもりだ。ただし、守ってほしい基本的なルールがいくつかある......。
まず、会社が費用を負担するのは1遺族につき2人分まで。ホテルと食事代は3泊分。当日は火曜日なので、全員が日曜日に到着し、水曜日には去る。例外は認めない。
遺族側は耳を疑った。話が違う、「何でもする」と言ったではないか。両親が参列したら、兄弟姉妹は参加できないのか。親が離婚している場合、継父母はダメなのか。土曜日に到着してはいけないのか。