最新記事

米企業

737MAX墜落事故の犠牲者家族に、ボーイング幹部が言い放った心ない言葉

REMEMBER THE MAX CRASH

2021年12月1日(水)16時54分
ピーター・ロビソン(ジャーナリスト)
ボーイング737MAX

ボーイングの工場で製造中の737MAX。5カ月の間に2度の墜落事故を起こした AP/AFLO

<義援金と追悼式典をめぐって遺族の気持ちを逆なでするボーイングの対応は、事故の原因となった「欠陥ソフト」を世に出した企業風土を物語る>

ボーイング737MAXの初号機がデビューしたのは2015年12月。世界に冠たる名門航空機製造会社ボーイングの、夢と期待(と莫大な利益)を懸けた最新鋭機だ。それは最先端の技術を詰め込み、需要の高まる小型機市場で「最高の燃費効率と信頼性、そして最高の乗り心地」を提供するはずだった。

しかし、その夢は立て続けに起きた2つの悲劇によってついえた。MCAS(操縦特性補助システム)という飛行制御ソフトの不備で機首が上がりすぎ、しかも操縦士は自動制御を解除できず、手動で操縦できなかった。18年10月28日にはライオン航空610便が、翌年3月10日にはエチオピア航空302便が墜落し、両機合わせて346人の乗客乗員が死亡した。前者は離陸から約12分後、後者は約7分後の出来事だった。

ジャーナリストのピーター・ロビソンは新著『フライング・ブラインド(盲目飛行)』で、なぜMCASの不具合が見逃されたのか、ボーイングの安全対策や企業体質に問題はなかったのかを深く掘り下げた。

以下の抜粋では、エチオピア航空302便の犠牲者追悼行事に当たり、遺族に寄り添うどころか自社の利益を優先した巨大企業の知られざる姿を描いた部分を紹介する。

世界が新型コロナウイルスのパンデミックにのみ込まれる直前の2020年初頭、ボーイングの関係者は3月10日(エチオピア航空302便墜落事故から1年の日)を控えて緊張していた。737MAXの問題が蒸し返され、企業イメージが傷つく心配があったからだ。

表向き、追悼行事は遺族たちの意向に沿って行われることになっていた。費用は、もちろん会社が負担する。しかし話し合いを進めるなかで、遺族側の不信感は募る一方だった。

1月下旬、ボーイングの当時の政府対応部門トップ、ティム・キーティングとその補佐ジェニファー・ロウはエチオピア航空本社で遺族との協議に臨んだ。そこはアディスアベバ空港に隣接する官庁のような地味なオフィスビルだが、集まった会議室だけは明るい海の色の壁だった。

遺族たちは耳を疑った

カトリック系の米スクラントン大学出身のキーティングは、心の広い聖職者のような口調で話し始めた。わが社は遺族にとって有意義な行事となるよう、何でもするつもりだ。ただし、守ってほしい基本的なルールがいくつかある......。

まず、会社が費用を負担するのは1遺族につき2人分まで。ホテルと食事代は3泊分。当日は火曜日なので、全員が日曜日に到着し、水曜日には去る。例外は認めない。

遺族側は耳を疑った。話が違う、「何でもする」と言ったではないか。両親が参列したら、兄弟姉妹は参加できないのか。親が離婚している場合、継父母はダメなのか。土曜日に到着してはいけないのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中