最新記事

米企業

737MAX墜落事故の犠牲者家族に、ボーイング幹部が言い放った心ない言葉

REMEMBER THE MAX CRASH

2021年12月1日(水)16時54分
ピーター・ロビソン(ジャーナリスト)

211207P52_BIG_02v3.jpg

米運輸省の前で演説する被害者サミヤ・ストゥーモの父マイケル AL DRAGO-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

事故後にボーイングは遺族と地域社会を支えるために1億ドルを支払うと発表していたが、まるで社内の福利厚生費を管理するかのように、その使途に制限を設け始めていた。その場にいたある人物の見立てでは、「カトリック信者の彼には人の死を嘆き悲しむ気持ちがあるが、企業人としての使命は別。最低限のコスト、最小限のメディア露出。それが彼に課された使命だった」。

行事は全て会社側が取り仕切る

行事を仕切るのは会社であり、遺族ではない。何を聞かれてもキーティングの答えは同じだった。セラピストを同伴したいと言えば、会社側で用意したセラピストたちを待機させると答える。出席できない遺族のためにカメラマンを入れたいと言えば、会社が撮影班を手配していると答える。もちろん、ジャーナリストの同席は論外だった。

式次第の打ち合わせになると、とげのある発言が続出した。追悼の辞を読む際は、ボーイングの関係者は退席してほしいとの希望を複数の遺族が述べた。葬儀の場に殺害犯がいるように感じられるからだ。するとキーティングは、こう答えた。「こちらが費用を負担する以上、私たちも同席します」

ボーイングが約束した1億ドルの義援金についても交渉はこじれた。犠牲者の1人でアメリカ人のサミヤ・ストゥーモ(当時24歳)は、女性のための医療支援でケニアに向かう途中だった。娘の無念を思い、父マイケルは非営利の「302便遺族会」を立ち上げた。

そして1月30日、義援金分配のためにボーイングに雇われた有名弁護士ケネス・ファインバーグと会うことになった。場所は首都ワシントンの高級ホテル。まずは昼食を共にして打ち解けましょう、という趣向だ。マイケルとしては、義援金の分配基準を知り、遺族会にも少し回してほしいと願っていた。

しかし、初対面にしては気まずい展開になった。エレベーターへと歩きながら、マイケルはファインバーグに言った。うちの娘、実は17年に出身校マサチューセッツ大学の同窓会であなたに会ったことがあるんですよ。するとファインバーグは、「その時のスピーチなら覚えています。彼女、今はどうしています?」と反射的に返してきた。「アディスアベバの地に眠っている」と、マイケルは吐き捨てるように答えた。

それでもファインバーグは何も気付かないようだった。ストゥーモ家について何も下調べをしていないのは明らかだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中