最新記事

反ワクチン

医学的な懸念から、政治の道具に変わった「ワクチン懐疑論」の実情

YOU CAN’T MAKE ME

2021年10月27日(水)21時30分
スティーブ・フリース
反マスク派

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<共和党主導で盛り上がる反ワクチン運動。その影響でコロナ以外の予防接種も敬遠され、根絶されたはずの感染症の流行が再発しかねない>

それは感染症対策のプロが見たら頭を抱えそうな、反ワクチン派の活動家が見たら狂喜乱舞しそうな光景だった。場所は米イリノイ州北部のブラッドリー。人口2万に満たない村で、住民の9割以上は白人だ。

そんな村で、新型コロナウイルスのワクチン接種「義務化」に反対する集会が開かれた。80人も集まればいいと主催者側は踏んでいたが、実際に詰め掛けたのは300人以上。しかも大半は、いかなるワクチンの、いかなる権力による接種強制も認めないと息巻いていた。ある右派の地方議員は叫んだ。「どんな神、どんな薬、どんな生き方であれ、自分の選んだものを信ずる権利。その権利のために、私は戦う!」

似たような集会は全米各地で開かれている。新型コロナに限らず、どんな感染症であれ、ワクチン接種の義務付けは個人の自由の侵害に当たる――そう信じる人々の運動が草の根レベルで広がっている証拠だ。

コロナ以前の時代とは明らかに違う。従来の反ワクチン派は、もっぱら医学的な懸念を根拠にしていた。なかには独特な宗教的信条を掲げる人や、いわゆる「薬害」を批判する左派の活動家もいた。

しかし今はワクチン義務化に反対する運動が政治化し、特に右派勢力で大きなうねりとなりつつある。それは新型コロナとの戦いを損なうだけでなく、おたふく風邪や百日咳、さらには天然痘などの感染症の復活と大流行を招きかねないと医療関係者は危惧している。

ジョー・バイデン米大統領は政府機関や民間企業で働く約1億人のアメリカ人に新型コロナ用ワクチンの接種を義務付けると発表したが、強制接種に反対する右派の動きはそれ以前から表面化していた。

この夏には南部テネシー州の保健当局が、小児用混合ワクチンやインフルエンザのワクチンを含む「定期的な予防接種に関する積極的な働き掛け」の中止を指示している。背景には共和党の牛耳る州議会からの圧力があったと伝えられる。

またオクラホマ州立大学やテキサスA&M大学などの研究者の報告によると、アメリカ人の約22%は現時点でワクチン拒否の姿勢を支持し、社会的アイデンティティーとして「反ワクチン派」を名乗っている。

ワクチンやその義務化に反対する運動は勢いを増し、その根拠は医学上の懸念から個人の自由に固執する政治思想に移行している。つまり、明らかに党派的な主張だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月に追加利下げの見通し=フィンランド中銀

ビジネス

英消費者信頼感指数、4月は23年11月以来の低水準

ビジネス

3月ショッピングセンター売上高は前年比2.8%増=

ワールド

ブラジル中銀理事ら、5月の利上げ幅「未定」発言相次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中