最新記事

反ワクチン

医学的な懸念から、政治の道具に変わった「ワクチン懐疑論」の実情

YOU CAN’T MAKE ME

2021年10月27日(水)21時30分
スティーブ・フリース

211102P46_HWC_02.jpg

ミシガン州で8月に行われたワクチン反対デモ EMILY ELCONIN/GETTY IMAGES

義務化は政府の権限ではない

カイザー家族財団の調査で、ワクチンの接種は「個人の選択」の問題か「他人の健康を守るために必要な社会的な責任の一部」かを尋ねたところ、共和党支持者の70%以上が個人の選択だと答えたという(民主党支持者ではわずか27%)。

また、インターネット上に流布される言説の調査分析を専門とするレニー・ディレスタがツイッターの投稿を分析したところ、コロナ以前にはワクチンの毒性などへの懸念を訴えていたワクチン懐疑論者も、最近は個人の自由や「選ぶ権利」を持ち出す傾向が目立つという。

「従来は立場も主張もさまざまだった人たちが、今はワクチン反対の主張で足並みをそろえ、団結し始めている」と言うのはシアトル小児病院の小児科医ダグラス・オペル。「新型コロナ用ワクチンの開発・認可プロセスの問題が政治化され、ワクチンに対する信頼と予防接種プログラムの持続可能性に悪影響を与えかねない。憂慮すべきことだ」

つい最近まで、ワクチンの接種義務が問題になる場面は自分の子供を保育所や学校に入れるときだけだった。それはほとんど症例はないが(万が一にも)流行したら困る感染症を防ぐための措置であり、比較的議論の余地のないことだった。

児童のワクチン接種は全ての州で義務化されている。ただし6州では医療上の理由で、その他の州では宗教的または「個人的な」信念を理由とする免除が認められている。

コロナ以前の予防接種反対派には、薬害批判のリベラルな懐疑派も含まれていた。しかしその主張の多くは、既に医学的に誤りと証明されている。また2000年に根絶宣言が出された麻疹(はしか)の流行がその後にあったが、予防接種のおかげで患者は何十人、何百人という単位で済んだ。

それでも疫学者たちは今、ワクチン接種の義務化に反対する保守派の論調に懸念を強めている。政治と公衆衛生の関係に詳しいコロンビア大学の歴史学者デビッド・ロズナーに言わせると、彼らは副反応などの医学的な問題には目を向けず、もっぱら「何であれ強制はいけない」という政治的な主張を押し立てている。

「このままだとワクチン全体への抵抗につながりかねない。さらに社会的な義務、社会の一体性といった概念の崩壊をもたらす可能性もある」と彼は警告する。「それは国家とは何かという問題にも通ずる。これだけ多くの国民が死亡しているのに、国論が一致せず、協力を拒む人がいる。これはアメリカ社会の大きな分断の始まりではないか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中