最新記事

反ワクチン

医学的な懸念から、政治の道具に変わった「ワクチン懐疑論」の実情

YOU CAN’T MAKE ME

2021年10月27日(水)21時30分
スティーブ・フリース

211102P46_HWC_03.jpg

テキサス州ヒューストンでは夏に感染が再拡大 JOHN MOORE/GETTY IMAGES

ワクチン義務化反対派の多くは、接種自体の安全性や有効性については論じようとしない。彼らは単に、ワクチン接種の強制は政府の権限ではないと主張しているだけだ。

「私は新型コロナ用ワクチンの接種には反対しない。それは個人の決めることだ」と、ワクチン義務化に反対する保守派団体を率いるジェイク・デューゼンバーグは言う。

「コロナに感染するリスクの高い人はワクチンを接種すべきだという議論には説得力がある。だが若くて健康な人に対して長期的な影響の不明なワクチンを接種する理由を疑問視する医師もいると聞く。いずれにせよ、政府が決めることではない」

しかしウイルスは、無症状の感染者の体内に潜んで、免疫力の弱った人に襲い掛かる。ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターのタラ・カーク・セルによれば、地域の予防接種率の低下によって弱い立場の人(年齢や持病などで予防接種を受けられない人)に感染症が広がる可能性がある。「新型コロナ用ワクチンに関する懸念が、他のワクチンにも及んだら大変だ」

従来のワクチンの接種率も低下

新型コロナのもたらした政治的な分断は、在来のワクチンに対する態度にも影響を与えているだろうか。残念ながら、感染症対策の司令塔CDC(米疾病対策センター)にも確たるデータはない。児童向けワクチンの接種率は平均して95%以上とされるが、それは2019年まで、つまりコロナ以前の数字だ。

しかし全米感染症基金によると、各地から上がってきた昨年の数値には「ワクチン接種率の憂慮すべき低下」が認められる。つまり、ワクチンで防げるはずの病気に感染するリスクが、あらゆる年齢層で高まっているということだ。

例えばフロリダ州マイアミデード郡では、20年4月時点で各種ワクチンを接種した児童数が前年同月比で60%も減少。ミシガン州では同年5月、生後5カ月未満の乳幼児の半数がワクチン接種を済ませていなかった。ニューヨーク市では同年3月から5月にかけて、各種ワクチンの出荷量が前年比で9割も減った。

ただし、当時はアメリカで新型コロナが猛威を振るい始めた時期。あの頃は親が子供を医者に連れて行くのもはばかられた。

しかし多くの小児科医が、懸念すべき変化を肌で感じているのは事実だ。例えばミシガン大学で「かかりつけ医」の指導に当たっている内科医のジョエル・ハイデルボーによれば、わが子へのワクチン接種を拒否する親が増えている。コロナ以前は年に数人だったのに、今では週に少なくとも2人はいるそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中