医学的な懸念から、政治の道具に変わった「ワクチン懐疑論」の実情
YOU CAN’T MAKE ME
保護者を説得するのは困難に
「今日も、両親の反対でワクチンを打っていない赤ちゃんがいた。それから健康診断に来た14歳の子に子宮頸癌と髄膜炎のワクチン接種を勧めたら、母親に拒否された」とハイデルボーは言う。「新型コロナのワクチン接種も勧めたのだが、母親がすごく怒りだしてね。ああいうのを作っている製薬会社の製品は全て捨てたと言っていた」
何年も前からワクチン接種の義務付けに反対してきた人たちは、こういう話に「わが意を得たり」と思っている。「この問題を真剣に考える人が増えた」と言うのは、ワクチンだけでなくマスクの義務化にも異議を申し立ててきた非営利団体「チルドレンズ・ヘルス・ディフェンス」のメアリー・ホランドだ。
「それって安全なの? 本当に効くの? ちゃんと臨床試験をやっているの? 万が一の場合の補償は? 具合が悪くなったり、死んでしまった人がいるのはなぜ? そんな疑問を投げ掛ける人が、以前よりずっと増えた」とホランドは言う。「みんなが関心を持ち、学ぼうとしているのはいいことだ」
こうなると、ワクチン接種に非協力的な親を説得するのは難しい。ハイデルボーによると、そうした親には一定の政治的価値観があり、保守的な政治家の話やSNSで得た一部の情報と食い違う医療情報には拒否反応を示すからだ。
もう1つ、ワクチン支持派には悩ましいデータがある。昨年は定期的なワクチン接種を受けられない児童が多かったのに、そうした感染症にかかる子が増えた形跡はないのだ。
去る6月、CDCは暫定的な数字としつつも、昨年は2~8歳児の三種(麻疹、風疹、おたふく風邪)混合ワクチン接種率が前年比63%も減った地域があると発表した。しかし、だからといって患者・感染者が増えたというデータはない。
なぜか。専門家によれば、ロックダウンの続いた地域では児童の外出も制限され、保育園や学校などで感染するリスクが減ったからだ。多くの児童がマスク着用や手洗いのルールを守り、病原体との接触を避けたことの結果でもある。
しかし、ワクチン反対派は違う解釈をする。前出のホランドらに言わせれば、ワクチンなしでも患者が激増しないのは、そもそもワクチンなど必要ないことの証しだ。
実に厄介な状況だが、それでも公衆衛生の専門家が「最後のとりで」と期待するのは保護者の役割だ。