最新記事

東南アジア

ASEAN、首脳会議へのミャンマー軍司令官参加拒否 緊急外相会議で合意

2021年10月16日(土)18時54分
大塚智彦

しかしASEAN側としてはミン・アウン・フライン国軍司令官も了解した5項目の合意のひとつ「国民の利益を最優先として平和的な解決を目指し関係者全員で建設的な話し合いを行う」にある「関係者全員」には、軍政が2月1日のクーデターで実権を奪取した民主政権の指導者であるスー・チー氏やウィン・ミン大統領なども含まれる、として直接の話し合いを何度も求めてきたのだった。

マレーシアがミャンマー排除に言及

だが軍政が頑強に拒絶しいたことで、「ASEANによるミャンマー問題に対する仲介調整の進展を著しく妨げている」として10月4日にオンラインで開かれた外相会議の席でマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相が「軍政のASEANへの非協力的姿勢には失望した」と指摘。「今後の進展が見込めないのであれば首脳会議からミャンマー代表の排除もありうる」と発言したのだった。

エルワンASEAN特使も「ミャンマー代表の首脳会議からの排除について真剣に検討している」と会見で明らかにするなど、頑なな軍政を排除する動きが加速していた。

ASEAN加盟国ではマレーシア、インドネシア、シンガポールがミャンマーに強硬な姿勢を示し、軍政代表の首脳会議からの排除を強く支持しているとされていたが、「満場一致」が原則のASEAN会議でこうしたミャンマー軍政に厳しい方針で合意したことは、ASEANのミャンマー問題解決に向けた強い意志と結束を内外に示した結果といえるだろう。

こうしたこれまでの流れに対してミャンマー外務省は10月14日に出した声明の中で「ASEAN特使の訪問については可能な限りのことをする用意がある」としながらも「いくつかの特使の要求は法律の規定を超えておりできないことである」として軍政下で法的に認められた政党関係者や軍政関係者との話し合いを優先するよう求めた。

この声明によって軍政はあくまで公判中の被告の身であるスー・チー氏らとの話し合いは「法律上困難」とするこれまでの立場を改めて確認し、依然として平行線をたどっていることを改めて示した。こうした姿勢も今回の緊急外相会議での合意形成に影響を与えたのは間違いないとみられている。

今後のASEANの対応が注目

ASEANとしては今後、スー・チー氏ら民主政府関係者や反軍政を掲げてクーデター後に組織された「国家統一政府(NUG)」関係者との話し合いが不可能な中でもあえて特使がミャンマーを訪問して軍政側などとの話し合いに応じるべきかどうかの難しい判断を迫られることになる。

ただASEANとしてはミャンマーを孤立させることだけはなんとしても回避したいとの思いがあり、地域連合としてミャンマー問題の仲介・調停で平和的な解決の糸口を探り続けるためになんらかの方法を26日からの首脳会議などで探ることになるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領「24日

ビジネス

アングル:ドル高の痛み、最も感じているのはどこか

ワールド

米上院、ウクライナ・イスラエル支援法案可決 24日

ビジネス

訂正-中国長期債利回り上昇、人民銀が経済成長見通し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中