コロナ禍のトラウマから、子供の心を守るレジリエンスの育て方
KIDS ARE ALRIGHT
レジリエンスの高いマウスは、トラウマの微妙なニュアンスを覚えて、分類し、関連する手掛かりを選んで次の行動に移すことが得意だと思われた。レジリエンスの低いマウスは特定の危険を一般化しがちで、必要がなくても身を縮めていた。
ネスラーはこれを、人間が困難に直面したときに関連付けて次のように説明する。「感受性が強いことはネガティブな見通しと、レジリエンスはポジティブな見通しと関連している。よりポジティブな見通しを持つ人は、より積極的で、微妙な感情表現を理解し、人生の複雑さを乗り越える方法を見つけようとする」
逆境に対する考え方を変えるように手助けすることによって、レジリエンスが高まることも分かっている。これについて最も野心的な取り組みの1つは、ニューヨーク市の医療従事者がコロナ禍で経験している多大なストレスに対処するためのプログラムで、マウント・サイナイ医学大学院のデニス・チャーニー学部長が立ち上げた。
トラウマのことなら、チャーニーはよく知っている。精神科医、および神経生物学者として30年以上もの間、レジリエンスの研究を続け、性的・身体的虐待被害者や先天性疾患患者、ベトナム戦争の元捕虜などに話を聞いてきた。
身をもって、トラウマの克服に取り組んだ体験の持ち主でもある。
2016年8月、地元の食料品店を出ようとしたチャーニーは、同店に恨みを抱き、ショットガンを手にやって来た元従業員と遭遇した。至近距離で受けた銃弾が肩を引き裂き、肋骨が折れて肺が破裂し、もう少しで肝臓に達するところだった。体内の血液の半分を失い、勤務先に併設するマウント・サイナイ病院の集中治療室で5日間を過ごした。
不可欠なのは「現実的楽観主義」
「レジリエンスについて、それまで何年も研究していた」と、チャーニーは振り返る。「自分にこう言った。『私にレジリエンスがあるか、これで分かるはずだ』と」
研究で発展させてきたアイデアを、チャーニーは自分に応用した。目指したのは、レジリエンスの促進に不可欠な「現実的楽観主義」を培うこと。具体的な方法の1つが、達成可能な目標を設定することだ。
カヤックや重量挙げのアスリートでもあるチャーニーは、スポーツという枠組みにリハビリをはめ込んだ。翌春のカヤックレースに参加し、年1回開催される「世界最強の男」大会出場を目指すと決意。またトラウマを和らげる最高の方法の1つは社会的交流だと承知していたことから、家族や同僚にサポートも求めた。
この経験が昨年春になって生きた。新型コロナ入院患者の致死率が最高32%に達したニューヨークで、闘いの現場に立たされたときだ。