アメリカ政治・社会の価値観の理解に欠かせない、レーガンのレガシー
REAGAN’S MORNING IN AMERICA
レーガンは時代を味方に付け、過去半世紀で最も成功した大統領となった MICHAEL EVANSーTHE WHITE HOUSE/GETTY IMAGES
<今年2月、生誕から110周年を迎えたロナルド・レーガンは底抜けの楽観主義だった。その存在は今も米国に影響を与えている>
ロナルド・レーガンは、物語を披露することが大好きだった。2004年に亡くなったが、大統領時代にプロテスタントの聖職者の集会で挨拶をしたときのこと。レーガンは、同じ日に死んだ聖職者と政治家についての話をした。
2人は天国の入り口で門番のペテロに出迎えられた。ペテロは天国のルールを説明し、2人をそれぞれの住む家に案内した。聖職者の家は、1部屋にベッドとテーブルと椅子があるだけ。政治家の家は、立派な家具がそろった巨大な邸宅だった。
政治家は感謝しつつも戸惑いを隠せなかった。「どうして私はこんなに素晴らしい家を与えられたのに、あの立派な聖職者は狭い家にしか住めないのでしょうか」
ペテロはこう答えた。「天国には、聖職者はもう大勢います。政治家でここに来ることができたのは、あなたが最初なのです」
いかにもレーガンらしいユーモアだ。笑い転げるようなギャグではないが、思わずクスっとさせられる。このとき語った物語は、その場にいた唯一の政治家である自分を卑下し、聴衆である聖職者たちのプライドをくすぐるものだった。
こうしたユーモアに接した人は、レーガンを親しみやすい人物だと感じる。政策への支持・不支持は別にして、この男のことが好きにならずにいられないのだ。
タイミングに恵まれた大統領
もっとも、レーガンが過去半世紀のアメリカで自身の理念の実現に最も成功した大統領になれた要因は、ユーモア感覚と人当たりのよさだけではない。タイミングにも恵まれた。
「小さな政府」を信奉するレーガンが大統領に就任したのは1981年。当時のアメリカ国民は、30年代のニューディール政策以来、ひたすら政府の規模が大きくなり続けていたことにうんざりし始めていた。
レーガンは就任演説で「この現在の危機においては、政府は問題の解決策になっていない。政府こそが問題だ」と述べた。この言葉は、多くの国民の気持ちを代弁していた。国民はレーガンの減税策と規制緩和に喝采を送り、84年の大統領選でも圧倒的な大差で再選した。
レーガンは別の面でもタイミングに恵まれていた。60年代まで、アメリカの民主党と共和党はいずれも保守派とリベラル派の連合体という性格を持っていた。共和党内では、北東部を地盤とする穏健派と、南部で勢力が強い保守派が共存していて、民主党内では、南部の保守派と都市部のリベラル派が共存していたのだ。