最新記事

米政治

アメリカ政治・社会の価値観の理解に欠かせない、レーガンのレガシー

REAGAN’S MORNING IN AMERICA

2021年8月28日(土)12時13分
H・W・ブランズ(テキサス大学オースティン校教授〔歴史学〕)

210831P44_RGN_02.jpg

1981年、1期目の就任式を控え、自宅で就任演説の草稿を執筆 DIRCK HALSTEAD/GETTY IMAGES

状況が変わり始めたのは、60年代に大統領を務めたリンドン・ジョンソンが公民権擁護を民主党の主要政策の1つに据えてからだった。この動きに反発した南部の民主党保守派は共和党に移っていった。それにより共和党ではリベラル派が居場所を失い、この勢力は民主党に合流した。

このプロセスは30年ほどかけて進行し、90年代にほぼ完了した。それ以降、リベラル派の共和党員や保守派の民主党員はほとんど姿を消した。

こうした政治の大転換の途中で、レーガンは大統領に就任した。この点は、レーガン政権が成功する上で極めて大きな意味を持った。

「80%」の成果のほうを選ぶ

レーガンは保守派ではあったが、常に現実主義者であり続けた。レーガン政権で首席補佐官と財務長官を務めたジェームズ・ベーカーによれば、レーガンは「妥協せずに崖から転落するくらいなら、目標を8割達成することを選ぶ」と述べていた。

選挙に勝つ目的は政治的得点を稼ぐことではなく、国を治めることだとレーガンは考えていた。大統領時代には、下院議長を務めていた民主党のトーマス・P・オニールと頻繁に面会し、税制、福祉、公的年金、移民、国防など、さまざまなテーマで次々と妥協案をまとめた。

保守派の民主党議員がたびたび造反したこともあり、レーガンはたいてい「80%」の成果を得ることができた。

外交でもタイミングが味方した。レーガンは、政界入りする前の俳優時代から筋金入りの反共主義者だった。映画俳優組合の委員長を務めた頃は、映画産業の労働組合から共産主義者を排除しようと奮闘したこともあった。

大統領に就任すると、当時の共産主義大国・ソ連に対する政策を大きく転換させた。ソ連に対する「封じ込め政策」を継承せず、ソ連との冷戦に勝つための戦略を選択したのだ。国防力を強化し、軍拡競争を宇宙に拡大することも辞さずに「戦略防衛構想(SDI)」を推進した。

冷戦下で東西に分断されていたドイツの西ベルリンを訪れた際は、ベルリンの壁の前で「この壁を壊しなさい」とソ連指導部を挑発した。だがレーガンのこうした行動は、はかばかしい成果を上げなかった。歴史の歯車が冷戦終結へと回りだしたのはソ連に改革派の指導者ミハイル・ゴルバチョフが登場してからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中