最新記事

米政治

アメリカ政治・社会の価値観の理解に欠かせない、レーガンのレガシー

REAGAN’S MORNING IN AMERICA

2021年8月28日(土)12時13分
H・W・ブランズ(テキサス大学オースティン校教授〔歴史学〕)

210831P44_RGN_03.jpg

88年12月、ニューヨークで行われた昼食会でゴルバチョフと乾杯 CORBIS/GETTY IMAGES

レーガンはゴルバチョフと顔を合わせ個人的な関係を築いた上で、歴史的な軍縮交渉に乗り出した。レーガンの任期中には冷戦は終わらなかったし、冷戦を平和的に終わらせるには次期大統領ジョージ・H・W・ブッシュの卓越した外交手腕が必要だった。

それでもレーガンの功績は大とされている。実際、アメとムチを巧みに使い分けるレーガン流交渉術は対ソ協議の円滑化に役立った。

レーガンは就任時とは様変わりした世界を残してホワイトハウスを後にした。望ましい変化もあったが、全てがそうではない。レーガンの「大きな政府」批判は主流の見解となり、民主党の大統領ビル・クリントンでさえ「大きな政府の時代は終わった」と宣言せざるを得なかった。

レーガノミクスの規制緩和は経済を劇的に変えた。庶民も空の旅を楽しめるようになったし、生産とサプライチェーンのグローバル化が進み、今も続くデジタル革命が幕を開けた。

しかしポスト・レーガン時代の経済は少数の富裕層に大きな恩恵をもたらす一方、「その他大勢」を置き去りにした。結果的に19世紀後半の経済膨張期以降、未曽有とも言うべき所得格差が生まれた。

また、生産拠点の国外移転で脱工業化が一段と進み、コロナ禍のような想定外の事態にはひとたまりもない脆弱なサプライチェーンが構築された。デジタル革命はその影響力の大きさと影響の及ぶ範囲で途方もなく巨大化した寡占企業を生み出した。

レーガンの遺産を歪めたトランプ

レーガンは節度をわきまえた温厚な人物で、慎重に言葉を選んだが、その後の歴代の大統領は必ずしもそうではなかった。就任演説でレーガンは「この現在の危機においては」という条件付きで「政府こそが問題だ」と述べたが、攻撃的な共和党候補たちはその前提条件を捨て去った。そして既成政治を容赦なくたたき、民主党政権の政策の擁護者を「アメリカ人の敵」扱いした。

いい例が過激な発言で大統領になったドナルド・トランプだ。任期終了間際には、大統領があおった怒りが物理的な暴力にまで発展した。

トランプの共和党はレーガンの共和党とは全くの別物だ。それでも受け継がれてきたレガシーはある。レーガン自身は人種差別主義者ではなかったが、「州の権限」の回復を主張することで南部諸州の人種差別主義的な政策を正当化し、共和党内に差別的な一派を残す結果となった。トランプがそうした一派を大いに厚遇したことは言うまでもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

情報BOX:ローマ教皇死去、各国首脳の反応

ワールド

プーチン氏側近「米ロの信頼回復必要」、北極圏協力再

ワールド

トランプ氏、国防長官に「全幅の信頼」と報道官 親族

ビジネス

米CB景気先行指数、3月は0.7%低下 関税巡る不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ページを隠す「金箔の装飾」の意外な意味とは?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中