中国の「反外国制裁法」と問われる日本の覚悟
バイデンはまたG7が終わったら、習近平と大の仲良しであるプーチンに会う予定まで立てている。プーチンは「友好的でない国」から「アメリカを外す意思はない」とロシアの外務副大臣が言っているし、またウクライナ問題を抱えているので、絶対に(今のところは)習近平から離れる気は毛頭ない。
しかしそれでもG7が結束すれば中国には痛いし、ましてや韓国がアメリカ側になびけば、相当なダメージを受けるだろう。
問題は日本だ。
習近平の国賓来日を中止したとは言わない日本。
最大の貿易国が中国である日本。
そして習近平の顔色をうかがって、今国会ではウイグル人に対する「ジェノサイド」を糾弾するための、(外国で起きた深刻な人権侵害に制裁を科す)「日本版マグニツキー法」の制定をしないであろう日本。
この日本がG7の中でどのように振る舞うかが、中国にとっては非常に大きな問題なのである。それもあって、何としても東京オリンピック・パラリンピックの開催を中国は応援しているのである。そうすれば日本は絶対に中国に反抗してこない。
バイデンの対中強硬姿勢は、6月7日付けのコラム<バイデン対中制裁59社の驚くべき「からくり」:新規はわずか3社!>で述べた通りで、中国はそれほど恐れてはいない。
問題はその周辺諸国なのである。韓国や日本、そしてヨーロッパ諸国がどう動くか、さらにインドやオーストラリアがどう動くかを警戒している。
毛沢東までさかのぼる習近平の覚悟
全人代常務委員会法工委の担当者は説明の中で毛沢東が(1939年に)使った「人不犯我、我不犯人(あなたが私を侵犯しなければ、私はあなたを侵犯しない)」という言葉まで持ち出して、反外国制裁法の正当性を主張している。
この言葉を用いた歌が、建国当初の中国で歌われ、私は小学校で声を張り上げて毎日のように歌わされたものだ。
中国共産党建党100年に当たり、習近平の執念が、この毛沢東の言葉に込められているという印象を受けた。
それは『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史習近平父を破滅させた鄧小平への復讐』で述べたように、1962年に父・習仲勲が鄧小平の陰謀によって投獄・軟禁された以来の恨みと復讐に裏打ちされた覚悟なので、底知れず深い。この歴史を知らない限り、習近平の行動を正確に分析することは不可能だ。
中国は今、アメリカを追い抜くか否かの瀬戸際にあり、アメリカは今、中国に追い抜かれてなるものかという分岐点に立たされている。天下分け目のこの日は早晩、必ず訪れる。
今年7月1日には、建党100年記念日を迎える。
中国共産党と国運の勝負として、習近平は一歩も引かないだろう。
問われるのは、国家理念なき日本の決意と覚悟である。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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