恐るべき江沢民の【1996】7号文件──ウイグル「ジェノサイド」の原型
当時「新疆分区」は習近平の父・習仲勲(1913年-2002年)が管轄する西北局の一部だった。陝西省で生まれ、小さいころから少数民族と共に生き、少数民族を愛し、少数民族に対する融和策を主張してきた習仲勲は、王震の殺戮行為に激怒し禁止したが、王震が従わなかった。そのため習仲勲は毛沢東に直訴したことさえある(この周辺の物語は拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述した)。
毛沢東は習仲勲を大事にしていたので、王震を左遷させるが、結局王震の腹心の部下である王恩茂を王震の後釜に据え、王恩茂は「民族浄化」策を徹底していくのである。王恩茂は紆余曲折しながらも結局のところ1985年10月には中共新疆ウイグル自治区顧問委員会主任を務めて、1988年以降も全国政治協商会議の副主席を務めていたので、新疆統治に関しては30年以上の経験がある。王震と共に鄧小平の天安門事件武力鎮圧に賛同し、二人とも鄧小平の覚えめでたかった。ということは王震も王恩茂も、「民主を武力で弾圧する」という側の人間であるということだ。
従って、江沢民が基本的には王恩茂の意見に基づいて発布した中発【1996】7号文件は、当然のことながら「新疆ウイグル自治区の不穏な動きを鎮圧すること」を主眼ととしていることは明らかだ。もちろん第九次五ヵ年計画の経済成長目標を達成するために「自治区の安定が必要」ということになろうが、中国政府にとっての「安定」はウイグル人にとっての「人権蹂躙」であり「ジェノサイド」なのである。
中発【1996】7号文件の内容
中発【1996】7号文件のタイトルは「新疆の安定を維持するための中共中央政治局常務委員会会議紀要」となっている。内容というか、基本的精神を以下に列挙する。
●民族分裂主義と違法宗教活動は新疆の安定に影響を及ぼす最も大きな危険要素である。このことを明確に認識せよ。
●新疆には現在、多くの複雑な国際情勢と不安定要素が潜在している。もし警戒を怠り、即座に対応できるように各方面の業務を強化しないと、大規模な突発事件の発生を招く危険性があり、場合によっては広範囲な騒乱、動乱が出現する危険性もあり、それは新疆ウイグル自治区に留まらず、あるいは全国的な広がりへと発展する危険性さえ孕んでいる(筆者注:江沢民は1989年の天安門事件で趙紫陽総書記が失脚したために突如総書記に抜擢されたため、天安門事件のような全国的動乱が起きるのを非常に恐れていた)。