最新記事

中国

恐るべき江沢民の【1996】7号文件──ウイグル「ジェノサイド」の原型

2021年5月3日(月)12時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
2002年10月に訪米した時の江沢民 

2002年10月に訪米した時の江沢民 Jeff Mitchell-REUTERS

1996年3月19日に江沢民は中共中央政治局発【1996】7号文件を発布し実行したが、それこそが今日に至るウイグル人「ジェノサイド」の原型になっている。実態をたどると結果的に日本が後押ししたことが見えてくる。

【1996】7号文件が出てきた経緯

1996年3月5日から17日にかけて、北京の人民大会堂で全国人民代表大会(全人代)が開催された。この全人代では第9次五ヵ年計画が発布されて「今後5年間の経済発展と、2010年までの遠景(中長期)計画」が発布された。

全人代が閉幕した2日後の3月19日、江沢民は中共中央総書記として中共中央政治局常務委員会委員(チャイナ・ナイン)を召集して会議を開き、中共中央政法委員会から「新疆の統治を安定的に維持する問題」に関して意見を聴取した。その結果発布されたのが中共中央政治局発【1996】7号文件(中発【1996】7号文件)である。

中共中央政法委員会は中国国内の「安全問題」を管轄する部署なので、同委員会から聴取したという時点で、「新疆の統治と安定」に対する基本的な姿勢が見えてくる。つまり「うまく鎮圧していく」という精神だ。

中発【1996】7号文件に大きく反映されたのは、長年にわたり新疆ウイグル自治区の統治(と鎮圧)に携わってきた王恩茂(おうおんも)(1913年-2001年)の意見だということが随所に記録されている。たとえば書籍『中国共産党治理新疆史』(朱培民・王宝英共著、当代中国出版社、2015年)や論文「新疆穏定形勢変化および維穏政策分析」(李暁霞著、当代中国民族宗教問題研究・第10集、2017年5月)などに書いてある。

王恩茂はまだ新疆ウイグル自治区が設立される前の「中共中央新疆分局」の第一書記を1952年から55年まで務めている。中国が建国された1949年から1950年にかけては王震(1908年-1993年)が書記を、50年から52年までは王震が第一書記を務めていた。

王震は「泣く子も黙る」というほどの「殺人鬼」として名を轟かせており、中国語では「殺人如麻」(手当たり次第に殺しまくる)と表現される。泣き止まない子に「王震が来るよ!」と言うと泣き止むという逸話がある。建国初期からウイグル人を「逆らえば殺すぞ」という「手あたり次第の大虐殺」で黙らせた人物として有名だ。数十万を殺したと言われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中