「この貞淑な花嫁は......男だ」 イスラムの教え強いインドネシア、ベール越しのデートで初夜まで気付かず
この2人もフェイスブックで知り合い、ネット上での交際を経て結婚することになり、NIさんがTEさんの自宅を初めて訪れた際にNIさんが外見は男性ながら声がどうも女性の様だとの疑惑が生じた。
このためTEさんの家族がNIさんの助産婦を探し出して追及したところNIさんの生物学上の性が女性と判明、危うく同性婚、それも女性同士の"許されざる婚姻"になる寸前だった。
この時はTEさんの家族親族からの報復を恐れた警察がNIさんを一時保護したが、双方の家族が話し合いの結果、平穏に和解したと地元マスコミは伝えている。
人前で肌を見せないイスラム教徒の女性
インドネシアでは人口の88%がイスラム教徒で社会生活の隅々までイスラム教の教え、倫理が浸透している。このため婚前交渉は原則として禁じられ、敬虔なイスラム教徒女性は人前では顔や手首以外の肌を露出することを回避、人によっては口の部分も覆って外部からは目しか見えない装束を着用する場合もある。
こうしたことから結婚初夜まで相手の性別が分からないという日本などでは考えられないケースが起きるといわれるが、極めて珍しいことには変わりなく、だからこそニュースとして伝えられたのだった。
イスラム教では性的少数者であるLGBTは禁忌であるため、インドネシア社会では過酷な差別にさらされ、しばしば人権問題として国際社会や人権団体から指弾されるのが現状である。
今回のロンボク島の男性同士の結婚や南スラウェシ州の女性同士の「結婚未遂」は生物学上の性を隠したことがそれぞれの問題の原因といえ、ある意味ではこの国におけるLGBTに関連する問題ともいえる。しかし幸いなことに両事案とも別の性を装った2人に対して誹謗中傷や暴力行為などはなかったと伝えられている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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