最新記事

環境問題

コロナ後の地球をまた大気汚染まみれに戻していいのか

Citing Pollution Decrease, Scientists Call for Permanent Changes Post-COVID

2020年4月13日(月)19時29分
ベンジャミン・フィアナウ

またこの空気を吸う気になれるのか(インドのニューデリー、2019年11月3日) Adnan Abidi-REUTERS

<新型コロナウイルスの感染拡大を止めるためのロックダウンで、思いがけず済んだ空気を取り戻した地球。これを機に、人類は汚染物質の排出を恒久的に削減し、地球温暖化を阻止すべきだという声が上がり始めた>

新型コロナウイルス対策としてのロックダウン(都市封鎖)や経済活動の縮小が、大気汚染の改善や二酸化炭素(CO2)排出量の減少といった環境へのプラス効果をもたらしている。これに合わせて科学者や環境保護活動家、宗教指導者などからは、「コロナ後」の工業生産や経済活動のあり方を恒久的に見直すべきだとの声が上がっている。

フランシスコ教皇は先ごろ、イギリスのカトリック系メディアに対し、今回のパンデミック(世界的大流行)は人類が地球を粗末に扱ったことに「自然が反応」した一例だと述べた。また教皇は「神は常に(人の過ちを)お許し下さるが、自然はけっして許さない」とも語った。これは気候変動を食い止めるために温室効果ガスや大気汚染物質の排出、そして化石燃料の使用を恒久的に削減すべきだと訴えている研究者や政治家たちが共通して抱いている思いだ。

新型コロナウイルスは世界で10万人を超える死者を出し、世界各地で医療崩壊を引き起こすとともに先進工業都市の多くを封鎖に追い込んだ。そのおかげで、インドでもアメリカ北東部でも澄んだ空が戻ってきた。インドからは30年ぶりにヒマラヤ山脈が見えたというニュースもあった。

「青く澄んだ空を見てきれいな空気を吸う喜びは、これまで人類がやってきたことと好対照だ」と、シャシ・タルル元国連事務次長は英ガーディアン紙に語っている。

大気中の窒素酸化物が30%も減少

NASAの人工衛星の測定データによれば、アメリカ北東部上空の大気に含まれる窒素酸化物は30%も減少した。化石燃料を燃やして走っていた多くの車が、道路から姿を消したためだ。インド北部の大気汚染の指標もここ数十年で最も改善されたという。ちなみに首都ニューデリーにおける自動車の登録台数は1100万台だが、インドでは現在、全土で外出禁止措置が取られていて外を走ることができない。

温暖化を回避するためには、こうした汚染物質の排出抑制や交通・運輸、工業生産活動の制限を、パンデミック収束後もずっと続ける必要がある、と専門家は主張する。

ネイチャー電子版で今月発表された、海洋生態系の再建に関する論文や気候変動に関する論文からは、地球温暖化を阻止しようとする研究者たちは、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制しようとする研究者たちと同じく、急激な悪化カーブを何とか平らにしようとして戦っていることがわかる。

「われわれの研究で明らかになったのは、今後10年間に温室効果ガスの排出削減に向けた迅速な行動を取れば、絶滅危惧種の増加を大きく減らせるということだ。COVID-19のパンデミック同様、リスク軽減に向けた早期の行動こそ大きな効果を上げうる」と、気候変動に関する論文の共著者であるケープタウン大学のクリストファー・トリソスはガーディアンに語っている。

<参考記事>「コロナ後の世界」は来るか?
<参考記事>パンデミックが世界を襲ったとき、文明再建の場所として最適な島国は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中