最新記事

BOOKS

質問・批判をかわす「安倍話法」には4パターンある、その研究

2019年7月12日(金)11時00分
印南敦史(作家、書評家)

安倍首相が「一(いち)」や「1(ワン)」という数字を使うときは、根拠なき事実を強調しようとしている傾向が見られると著者は言う。安倍首相の「一」をどう受け止めるか、読者にも考えてもらいたいとも。

「一度も」あるいは「一回もない」というのは、非常に強い否定である。自分への疑いを晴らすには効果のある言い方だと著者は言うが、子供の言い訳に近いと個人的には感じる。事実、根拠もないのにはっきり否定してしまうのは幼児性の表れでもあろう。

二者択一の質問なのに、関係ないことをダラダラ話す

「安倍話法を考える③」は、「YES(はい)NO(いいえ)で答えない」。YESかNOか二者択一の質問に対しては、「YES(はい)」とも「NO(いいえ)」とも答弁しないということだ。

2017年5月8日、衆議院予算委員会で、民進党(当時)の長妻昭議員が「自民党憲法草案の主要な3点については、取り下げるのか?」と安倍首相に質問した。本来なら安倍首相は、肯定するか、否定するか、どちらかを選べばいいだけだ。

ところが安倍首相はここで、必要以上に長い答弁をしてみせたのである。少し長いが、引用したい。なぜなら、この中身のなさは必見だからである(著者自身、同書へにこの長い答弁を引用しているのは「現職総理大臣のありのままの姿を知ってほしいという思いがあるから」だと述べている)。


長妻委員 (略)自民党の例えば九条、自民党憲法草案の国防軍とか、あるいは公共の福祉という文言を全て公益及び公の秩序に変えるとか、あるいは憲法九十七条の基本的人権の尊重という条文をばっさり全部削除する、こういう自民党の憲法草案についても総理といろいろ議論しましたけれども、今申し上げた三つの観点についてはもう取り下げる、自民党憲法草案の今の主要な三点については取り下げる、こういう認識でよろしいんですか。

安倍内閣総理大臣 いま、繰り返しになるんですが、私は、ここは内閣総理大臣として立っており、いわば私が答弁する義務は、内閣総理大臣として義務を負っているわけでございます。自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟読していただいてもいいんだろうと。これは自民党......(発言する者あり)済みません、ちょっと静かに。(中略)つまり、それはもうそこに、いわば党総裁としてはそこで述べていますから、ぜひ党総裁としての考え方はそこで知っていただきたい。ここで党総裁としての考え方をるる述べるべきではないというのが私の考え方でありますから、それはぜひそこでいわば自民党総裁としては知っていただきたく。あるいはまた、ビデオでそれは述べているわけでございます。(中略)

結局、この長い長い答弁を止めたのは、浜田靖一委員長だった。

浜田委員長 総理、済みません、簡潔に願います。

しかし、安倍首相は諦めない。

安倍内閣総理大臣 簡潔に申し上げますと、結果を出す上においては、まさに議論をしていく上においてだんだんこれが収れんしていくという中における一つの考え方として申し上げたところでございます。どうかその点を御理解いただきたい。こう思うところでございます。(二〇一七年五月八日 衆議院予算委員会より)
(136〜138ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ

ワールド

ロシア大統領、政府と中銀に協調行動要請 インフレ抑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中