質問・批判をかわす「安倍話法」には4パターンある、その研究
「簡潔に申し上げます」どころか、まったく正反対である。「いよいよ結論を言うのか?」と期待させておいて、結局は意味のないことをダラダラ話し始めるのだから。
これを著者は、時間を使って相手を煙に巻く「ダラダラ話法」だと呼んでいるが、長い答弁で相手をうんざりさせるためには、なるほど効果的かもしれない。
「印象操作だ」「レッテル貼りだ」が視聴者に与える影響
そして「安倍話法を考える④」は、「『印象操作』は時間稼ぎのテクニック」である。
ご存じのとおり安倍首相は、国会で対立相手の野党や質問議員から森友・加計問題などを追及されると、「印象操作だ」「レッテル貼りだ」と興奮しながら批判を繰り返す傾向がある(そもそも、それは総理大臣にあるまじき態度なのだが)。しかし、こうした答弁そのものが、議員が質問した内容は「間違っている」という印象を植え付けようとしているのではないかと著者は言う。
首相のそんな発言をテレビで聞いた視聴者が、「ああ、○○議員の言っていることは、正しくないのだな」と思ってしまったとしても無理はないということだ。
国際医療福祉大学の川上和久教授(政治心理学)は、「『印象操作だ』と言って正面から疑問に答えず、時間稼ぎをしながら野党を批判するという安倍首相のテクニックだ」(毎日新聞二〇一七年六月五日)と分析する。(139ページより)
相手が聞きたがっている核心部分について答えたくないから、議論や質問に無関係な答弁をしてはぐらかす。それが「安倍話法」のひとつだということだ。
なお、安倍首相が「印象操作」という言葉を多用し始めたのは、2017年2月のこと。森友学園問題をめぐる朝日新聞のスクープがあり、安倍首相や財務省の言葉の真偽に世間の注目が集まっていた時期だ。
この年、衆参両方の委員会で、安倍首相は計27回も「印象操作」という言葉を発しているのだという。よほど、それが自身を防御するために有効だと思ったのだろう。
著者もその点を突いているが、つまり安倍首相の答弁は、相手が知りたいことに誠実に答えようとするものではなく、「はぐらかすための答弁」だということだ。
客観的な視点に基づいた緻密な分析がなされているため、本書にはとても読み応えがある。しかし、だからこそ読み終えると暗澹たる気持ちにならざるを得ない。言うまでもなく、その幼稚さに呆れるしかないからだ。
『「安倍晋三」大研究』
望月衣塑子&特別取材班 著
KKベストセラーズ
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
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