最新記事

BOOKS

団地は最前線、団地こそが移民の受け皿として機能する?

2019年5月27日(月)18時00分
印南敦史(作家、書評家)

もちろん芝園団地だけの問題ではなく、同じような問題は日本全国に存在する。そして不当な扱いを受けているのは、中国人だけではない。印象的なのは、愛知県豊田市の保見(ほみ)団地でゴミステーションの掃除をしていた男性の話だ。


 藤田パウロ(七三歳)。同団地に住む日系ブラジル人だ。
「きれいにしないとね。カゴの外にごみははみだしちゃダメ。飲み物が入ったままのペットボトルもダメ」
 最後に周囲を水で洗い流す。完璧だ。ここまで清潔なごみ置場など見たことがない。
 藤田はもう二〇年も前から、こうして早朝の掃除を欠かさない。いうまでもないが、当然ボランティアだ。誰に頼まれたわけでもない。自分の意思で続けている。(210ページより)

著者の「なぜ、そこまできれいにするのですか?」という問いに対し、藤田は「私自身、汚れた場所は好きじゃないし。なんといっても自分が住んでいる場所だから。それから......」と言葉を途切らせたのだという。


――それから?
 答えを急かすような私に対し、藤田はちょっと困ったような顔つきでこう答えた。
「ごみステーションが汚れていると、日本人はすぐにブラジル人のせいにするでしょ? ブラジル人が汚していなくてもブラジル人のせいにされる。だからどんなときでもきれいにしておかないと」
 藤田が口にする「日本人」という言葉の響きには、戸惑いや恐れが含まれているような気がした。
 藤田自身が日系二世である。ブラジル生まれとはいえ、父親は岡山県出身、母親は大阪府出身の「日本人」だ。それでも藤田にとって「日本人」は、ちょっと違う地平に立つ人々なのだ。(211ページより)

2018年末に、在留資格を新設する入館法改正案が臨時国会で成立した。人手不足業種の現場はこれまで技能実習生や留学生によってまかなわれてきたが、それだけでは足りないため新たに「特定技能」という在留資格を設け、最長10年間、単純労働分野における外国人の雇用が可能になったのである(技能実習生は最長5年)。今後5年間で約35万人におよぶ外国人労働者の受け入れが見込まれるという。

政府は決して「移民」ということばを使わないが、外形上は移民受け入れに舵を切ったわけである。政府の思惑がなんであれ、少子化と急激な高齢化が進行する以上、現実問題として移民は増え続けることになる。

その際、文字どおりの受け皿として機能するのが団地だと著者は主張する。団地という存在こそが、移民のゲートウェイになると。そして、そこに団地の高齢化問題を解決するひとつの解答が示されているというのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中