イラン合意からの米離脱をプーチンが喜ぶ訳
アメリカのイラン合意離脱はプーチンが思いどおりに国を動かす追い風になるかもしれない Maxim Shemetov-REUTERS
<対イラン制裁強化による石油の供給減と価格急騰のおかげで財政は回復へ――ただし行き過ぎは石油離れの原因になる>
ドナルド・トランプ米大統領は5月上旬にイラン核合意離脱を宣言し、「イランにかつてない最強の制裁を科す」と誓った。最大の標的の1つは活況に沸くイランの油田。ヨーロッパとアジアに日量400万バレルの原油を供給する経済の原動力だ。
イランや諸外国がひるむなか、アメリカの方針転換に唯一喜んだ国がある。ロシアだ。
その理由は需要と供給。新たな制裁が今秋全面実施されれば、日量100万バレルのイラン産石油が世界市場から消える見込みだ。その結果、原油価格が急騰して一番得をするのはロシアだろう。ロシアは世界最大のエネルギー輸出国だが、過去4年間、原油価格の下落によって経済が深刻な打撃を受け、財政赤字や緊縮計画につながってきた。
だがそれもトランプのおかげで風向きが変わるかもしれない。「トランプの思いがけない贈り物に感謝しなくては」とモスクワの石油アナリスト、アレクセイ・ガブリロフは言う。「イランの損はロシアの得になる」
石油の需要回復はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって政治生命の新たな命綱だ。
5月7日、プーチンは通算4期目の就任宣誓で、ロシアが「独自の開発計画を策定し、障害や環境に邪魔されずに自分たちの未来を自分たちだけで決められるようにする」と誓った。だがその裏では長引く不況を乗り切るため、財政赤字に備えた安定化基金1250億ドルを使い果たそうとしていた。
14年、ロシアによるクリミア併合とウクライナ分離独立派への支援に対してアメリカが初の制裁を科して以来、通貨ルーブルの価値は半分近く下落。インフレ率は2桁に達し、ロシアの多くの大物実業家が国際金融システムから締め出された。
国際的な石油価格の下落も財政危機の一因となった。石油と天然ガスはロシアの輸出の約50%を占める。損失を補塡し、軍事支出と社会支出を維持するべく、プーチンは原油価格下落に備えて蓄えていた安定化基金を利用した。
だが今年1月、ロシア財務省は安定化基金が約170億ドルに減少し、枯渇しかけていると発表。政府は年金受給開始年齢を現在の女性55歳、男性60歳から、男女とも65歳に引き上げる不評な年金制度改革まで計画した。
プーチンがロシアを意のままに運営し、世界に影響力を振るえる最大のカギは石油価格だ。原油先物価格が3年半ぶりに1バレル=80ドルを超えるなど最近の石油高騰を追い風に、ロシアはウクライナとシリアへの介入を踏みとどまらなくなるのではないかと専門家は予測する。
過去4年間、歳入減少にもかかわらず、プーチンは軍事支出をGDPの5%に拡大した(NATO加盟国の軍事支出の目標はGDPの2%以上だが、目標を大きく下回る国がほとんどだ)。