イラン合意からの米離脱をプーチンが喜ぶ訳
シェールガスが勢いづく
プーチンは欧米と「長期の意地比べ」をしているつもりらしいと、資産運用会社ブルーベイ・アセット・マネジメントのティム・アッシュ上級ストラテジストは指摘する。「石油が値上がりすれば、プーチンは欧米に対して時間稼ぎができる」
アメリカの政策は原油価格高騰のお膳立てをしていると、専門家は言う。対イラン制裁の復活を受けて、世界の石油埋蔵量の47%を占める中東では緊張が高まった。大統領選の公正さが疑問視されている南米の主要産油国ベネズエラに対しても、米政府は制裁を強化する見込みだ。そうなれば国際市場に出回る原油はさらに減少する。
一方、OPECは17年1月以来、石油価格を少しずつ押し上げるべく協調減産を実施。サウジアラビアの仲介による16年12月の合意以来、ロシアも日量30万バレルの減産を実施してきた。仏エネルギー大手トタルのパトリック・プヤンヌCEOは数カ月以内に1バレル=100ドルに回復すると予測する。「世界は変わった」と、プヤンヌは5月、石油関連企業のトップらに語った。「地政学が再び市場を支配する世界だ」
ロシアにとって石油急騰はリスクも伴う。ロシアは原油に頼っているが、原油価格急騰を機に、より燃費がよく低価格のエンジンやバッテリーへの投資が増える。何よりロシア石油業界の戦略上の宿敵、アメリカのシェールガスの生産が急増する。
ロシアにとって理想的な石油価格は「50~55ドル」と、コンサルティング会社マクロ・アドバイザリーのクリストファー・ウィーファーは言う。ロシアの財政を均衡させる程度には高いが、石油に代わるエネルギー源や技術を勢いづかせて石油の長期的な将来性を損なうほど高いわけではない、というレベルだ。
シェールガスの動向で景気が左右されるような状況は、ロシアが何としても避けたいところ。だからこそロシアは、矛盾するようだがトランプのイラン核合意離脱計画に反対してみせた。セルゲイ・ラブロフ外相は合意離脱を「国際法を踏みにじるもの」と非難。ロシアはイラン石油産業に多額の投資をしており、それが打撃を受けかねないことも反対理由の1つだった。
とはいえ、当面のところは1バレル=80ドルでも見通しは明るい。ロシアは連邦予算均衡に必要な額を1カ月100億ドル上回る収入を得ることになる。ゴールドマン・サックスの予測では18年の経済成長率は3.3%で、欧米を上回る見込みだ。米大統領選への介入を理由にアメリカが新たな制裁を科したにもかかわらず、今年第1四半期のインフレ率は2%に低下した。
プーチンはアメリカに感謝しているに違いない。
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