イヴァンカとパナマ逃亡者──トランプ一家の不動産ビジネスに潜む闇
ロシア・コネクション
パナマのトランプ・オーシャン・クラブにまつわるエピソードにおいて、関係者の多くにとって見せ場を迎えたのは、2007年初めのある暖かな雲1つない澄み切った夜だろう。
場所は米フロリダ州にあるトランプ氏の別荘「マールアラーゴ」。ランボルギーニやポルシェといった高級車からカーペットに降り立ったのは、営業担当や顧客、そしてその眼識やキャッシュが1カ月以内にパナマ市のプロジェクト予定地での建設を可能にするかもしれない潜在顧客たちだ。
お酒や音楽、米芸能人レジス・フィルビンのジョークにもてなされ、ゲストはトランプ氏やその子どもたち、ドナルド・ジュニア氏、エリック氏、イバンカ氏とあいさつを交わした。このイベントは販売キャンペーンの成功を祝し、そしてさらなる顧客を呼び込むために行われた。
ノゲイラ被告は、このパーティーでドナルド・トランプ氏に会ったが、これが「最初で最後」だったと話している。「彼らが私のことを『この男がパナマを売っている』と紹介すると、(トランプ氏は)私に感謝の意を述べた。2、3分会話した」とその時の様子を振り返った。
ゲストにはプロジェクトに関係する投資家やブローカー、ロシア人や旧ソ連出身者も含まれていた。ノゲイラのホームズ社の一員として、ダークスーツ姿のアレキサンダー・アルトショウル氏がいた。
投資家がトランプ氏に魅せられる理由について、「ロシア人はブランド好き」だからだと、ベラルーシ出身のアルトショウル氏はロイターに語った。「時期も適切だった。投機的な売買が飛び交い、多くの人が利益を得ようと期待していた」
カナダの市民権を有するアルトショウル氏は2007年、ホームズ社のウェブサイトに「パートナー」、そして「オーナー」として記載されていた。カナダのトロントからパナマに移り住んだ同氏は、家族や友人らとトランプ・プロジェクトに投資し、マンション10戸とホテル1室の手付金を支払い、ホームズ社と関わりをもつようになった。
アルトショウル氏とパナマの企業記録によると、同氏の投資パートナーに、モスクワ出身で同氏の親戚であるアルカディ・ボドボソフの名前がある。ボドボソフは1998年、イスラエルで誘拐や殺害脅迫などの罪で実刑5年の判決を受けたとの裁判所記録が残されている。
電話でトランプ・プロジェクトとの関わりについて尋ねると、ボドボソフはそのような質問はナンセンスだとし、「パナマにはほんの短期間しかいなかったし、かなり前に出国した」とだけ答えた。
アルトショウル氏はマールアラーゴでのパーティーに、ホームズ社のもう1人のパートナーであるスタニスラウ・カバレンカ氏と一緒に出席している。カバレンカ氏もまた、旧ソ連からカナダへの移住者だったという。
時期は異なるが、アルトショウル氏もカバレンカ氏もそれぞれ、組織犯罪との関係を疑われて告発されたが、のちに嫌疑は取り消された。
飛ぶように売れる
マールアラーゴでのパーティーから数カ月、トランプ・オーシャン・クラブ建設プロジェクトに関わった人たちの前途はバラ色のように見えた。世界的な不動産ブームと宣伝が功を奏する中、売り上げは予想を上回るものだった。
債券目論見書が2007年11月に発行され、建設資金の調達が可能となった。同年6月末までに、プロジェクトは「建物のマンション部分と事業用部分の約64%を事前販売した」と目論見書には書いてある。プロジェクト完成時に少なくとも2億7870万ドルの収益が保証されたことを意味している。
トランプ氏はのちに、2011年のオープンを控えたプロモーションビデオの中で、同プロジェクトは「飛ぶように」売れたと語っている。