アメリカの「今さら」ユネスコ脱退で増す中国の影響力
世界遺産登録への疑問
今回の脱退劇をまたぞろトランプ政権による国連たたきかと片付けるのはたやすい。だがユネスコには批判すべき点もある。
確かにユネスコは、環境保護やメディア教育の分野で立派な活動をしてきた。最近ではテロ組織ISIS(自称イスラム国)による文化財の破壊や違法取引に対抗すべく、国際社会の意識を高めて行動を起こす先頭に立っている。
だが批判派に言わせれば、世界遺産登録で野放図な観光を促し、保護すべき場所にしばしば危害を加えてきた。世界遺産を1000カ所以上も登録して手を広げ過ぎたともいわれる。
アメリカの脱退により、ユネスコ内部では中国の影響力がさらに増すだろう。中国政府は、習近平(シー・チンピン)国家主席が言う「中国の特徴ある大国外交」の重要な要素にユネスコを位置付け、世界遺産登録のロビー活動に力を入れてきた。今や中国の世界遺産は52件と、イタリアの53件に次ぐ世界2位の多さになった。
今年7月にチベット高原の青海省フフシルが世界遺産に登録されたときには、中国による地域の支配強化になるという批判があった。中国当局が、現地からチベット系住民を立ち退かせる口実になるからだ。
ユネスコが過度に政治化されて、本来の使命から逸脱しているとの批判はもっともだ。だがそれは組織そのものより加盟国の問題が大きい。どんな国際機関も参加諸国の存在を反映するもの。アメリカが脱退したからといって、アメリカの懸念する問題への取り組みが進むとは考えにくい。
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© 2017, Slate
[2017年10月24日号掲載]