アメリカの「今さら」ユネスコ脱退で増す中国の影響力
アメリカが抜けたユネスコで幅を利かせるのは習近平の中国か Christian Hartmann-REUTERS
<資金拠出も投票権もなかったアメリカの脱退に衝撃はない。今後はユネスコ組織内で中国の影響力が増すだろう>
アメリカは10月12日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)からの脱退を表明した。米国務省によると、「反イスラエルの偏向」と「根本的な改革の必要性」がその理由だ。
フランスのパリに本部を置き、文化財の維持活動や「世界遺産一覧表」で知られるユネスコだが、アメリカとは驚くほど争いを演じてきた過去がある。
1984年、レーガン政権はユネスコの事業がソ連の影響を受けて政治的に左傾化したと見なし、脱退に踏み切った。だが2003年にはブッシュ政権がユネスコへの復帰を決めた。折しもイラク戦争の開戦前で、国際社会の支持を得ようという外交努力の最中だった。
11年にパレスチナのユネスコ加盟が承認されると、オバマ政権はユネスコへの分担金拠出を停止。これは90年代に成立した国内法で、パレスチナの正式加盟を認めた国連機関への資金提供を停止すると定められていたため、やむを得ぬ対応だった
分担金拠出の停止を受けて、ユネスコは規定に基づき13年にはアメリカの投票権を停止した。以降、アメリカは加盟を続行しながら、舞台裏でロビー活動を展開してきた。
今回また摩擦が生じたのは、ユネスコが5月に採択したイスラエルを非難する決議で、イスラエルをエルサレムの「占領者」と呼んだことがきっかけ。ニッキー・ヘイリー米国連大使は指名承認公聴会で、「国連による反イスラエル偏向の長い歴史」と闘うと言明していたから、なるほど脱退にはうなずける。
しかし、既に資金も出さなければ投票もしないアメリカが、ここで脱退しても衝撃はほとんどないだろう。米政府は今後、ユネスコの「常任オブザーバー」の地位を目指すとしている。