文在寅政権に問われる、財閥改革の覚悟
めきめき力を付け巨大化した財閥を崩壊寸前まで追い込んだのは97年のアジア通貨危機だ。この危機を乗り切った財閥はさらに大きな飛躍を遂げる。サムスンは不採算事業や肥大化した管理部門を整理し、デジタルTV、携帯電話、新型ディスプレイに注力。日本のソニーを打ち破る牽引力になり、スマホのギャラクシーの大ヒットで世界に知られるブランドになった。
創業者一族の力が弱まる場合も、改革派が求めるような権力の一掃が起きるわけではない。現代グループは01年にカリスマ創業者の鄭周永(チョン・ジュヨン)が死去した後、後継争いでグループ企業が分裂。有力子会社の分離や売却が続き、負のスパイラルに入り込んだ。
韓国と日本で事業を展開するロッテグループは、数年前から創業家の長男と次男がお家騒動を繰り広げてきた。今年4月に次男の辛東彬(シン・ドンビン、日本名・重光昭夫)会長が、朴前大統領の周辺に70億ウォン(約6億8000万円)の賄賂を渡したとして在宅起訴され、長男側は再び攻勢を強めている。
16年8月に経営破綻した海運最大手の韓進(ハンジン)グループは、06年に会長が病死した際、経営を知らない専業主婦の妻が後継者となった。
政府は一族の内輪もめを制止するどころか、97年の金融危機以降、財閥が前例のないほど拡大することを許してきた。その影響力はあまりに大きくなり、財閥の長たちは、罪を犯しても罰を逃れることさえできる。
95年以降、大手財閥の会長のうち少なくとも17人が、賄賂や横領など、いわゆる経済犯罪で有罪判決を受けている。しかし、多くは刑務所に収監されずに済んでいる。
なかでもサムスンの李会長、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長、ハンファグループの金会長の3人はそれぞれ2回ずつ、経済への多大な貢献を理由に大統領の特赦を受けた。そして、玉座に復帰した彼らは、国内の主流メディアから絶賛されるのだ。
愛憎が重なる国民感情
今年2月、サムスン電子の副会長を務める李在鎔が贈賄、横領、偽証など5つの容疑で逮捕された。最大の容疑は、サムスン物産と第一毛織の合併をめぐり、朴前大統領の周辺に総額433億ウォン(約42億円)を提供したこと。朴政権は保健福祉省を通じ、サムスンのグループ会社の大株主だった国民年金公団に、合併に賛成するよう圧力をかけたとされている。
国民年金公団への圧力に関しては、既に関係者の裁判が始まっている。6月8日には前保健福祉相が職権乱用の罪などで実刑判決を受けた。
朴前大統領のスキャンダルを機に、財閥と政府の共謀関係に対する抗議の声が高まっている。しかし、韓国の国民は今なお、愛憎が交錯する実用主義と愛国心が交じった苦い思いで、経済界の恐竜を見つめている。財閥の名声と安定した経営を愛し、並外れた力を憎みながら。