最新記事

韓国

文在寅政権に問われる、財閥改革の覚悟

2017年7月27日(木)16時40分
ジェフリー・ケイン(韓国在住ジャーナリスト)

magw170727-samsung.jpg

サムスンのプリンス李在鎔の逮捕収監は象徴的だった Kim Hong-ji-REUTERS

めきめき力を付け巨大化した財閥を崩壊寸前まで追い込んだのは97年のアジア通貨危機だ。この危機を乗り切った財閥はさらに大きな飛躍を遂げる。サムスンは不採算事業や肥大化した管理部門を整理し、デジタルTV、携帯電話、新型ディスプレイに注力。日本のソニーを打ち破る牽引力になり、スマホのギャラクシーの大ヒットで世界に知られるブランドになった。

創業者一族の力が弱まる場合も、改革派が求めるような権力の一掃が起きるわけではない。現代グループは01年にカリスマ創業者の鄭周永(チョン・ジュヨン)が死去した後、後継争いでグループ企業が分裂。有力子会社の分離や売却が続き、負のスパイラルに入り込んだ。

韓国と日本で事業を展開するロッテグループは、数年前から創業家の長男と次男がお家騒動を繰り広げてきた。今年4月に次男の辛東彬(シン・ドンビン、日本名・重光昭夫)会長が、朴前大統領の周辺に70億ウォン(約6億8000万円)の賄賂を渡したとして在宅起訴され、長男側は再び攻勢を強めている。

16年8月に経営破綻した海運最大手の韓進(ハンジン)グループは、06年に会長が病死した際、経営を知らない専業主婦の妻が後継者となった。

政府は一族の内輪もめを制止するどころか、97年の金融危機以降、財閥が前例のないほど拡大することを許してきた。その影響力はあまりに大きくなり、財閥の長たちは、罪を犯しても罰を逃れることさえできる。

95年以降、大手財閥の会長のうち少なくとも17人が、賄賂や横領など、いわゆる経済犯罪で有罪判決を受けている。しかし、多くは刑務所に収監されずに済んでいる。

なかでもサムスンの李会長、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長、ハンファグループの金会長の3人はそれぞれ2回ずつ、経済への多大な貢献を理由に大統領の特赦を受けた。そして、玉座に復帰した彼らは、国内の主流メディアから絶賛されるのだ。

愛憎が重なる国民感情

今年2月、サムスン電子の副会長を務める李在鎔が贈賄、横領、偽証など5つの容疑で逮捕された。最大の容疑は、サムスン物産と第一毛織の合併をめぐり、朴前大統領の周辺に総額433億ウォン(約42億円)を提供したこと。朴政権は保健福祉省を通じ、サムスンのグループ会社の大株主だった国民年金公団に、合併に賛成するよう圧力をかけたとされている。

国民年金公団への圧力に関しては、既に関係者の裁判が始まっている。6月8日には前保健福祉相が職権乱用の罪などで実刑判決を受けた。

朴前大統領のスキャンダルを機に、財閥と政府の共謀関係に対する抗議の声が高まっている。しかし、韓国の国民は今なお、愛憎が交錯する実用主義と愛国心が交じった苦い思いで、経済界の恐竜を見つめている。財閥の名声と安定した経営を愛し、並外れた力を憎みながら。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中