最新記事

BOOKS

中高年男性がキレる理由がわかった!(けれども......)

2016年4月5日(火)19時30分
印南敦史(作家、書評家)

 そんな言葉が、多くの中高年男性が溜め込んできた思いをますます爆発しやすくさせるのだと著者はいう。たしかに一億総活躍社会という発想は、私の目から見ても「笑えないお笑い」でしかない。ただ、ちょっと引っかかる部分もある。本当に議論すべき問題は、「その先」にある気がしてならないのだ。

 本書の大部分は中高年がキレる理由の解釈に費やされており、そこに書かれていることは納得できることばかりである。しかし、ただ彼らに共感するだけでは、なんの解決にもならないはずだ。

 つまり「キレる理由」を検証したのであれば、そのあとに続くべきは「キレなくてすむような手段」を提示することであろう。読み進めながらその部分に早くたどり着きたいと感じたし、たしかに第6章では、そのための策が講じられている。ただ、そこに書かれているのは「ひと呼吸置く」とか「ネガティブな思いの反芻グセを直す」とか、あるいは「ストレスコーピング(いわゆるストレス解消)の実践」など、誰にでも考えつくようなことばかりである。

 もっと、「そうか、そういう考え方もあったか!」と思えるようななにかにたどり着きたかったのだが、残念ながらそこが本書には欠けている。また、「中高年」といいながら、実際には「中高年男性」だけのことしか書かれていない点も気になった。

 なぜならキレる傾向にあるのは、必ずしも男性だけではないからだ。事実、冒頭のエピソードから数週間後のつい先日、設定の仕方を教えてもらうため携帯ショップを再訪すると、今度は40代くらいの女性が大声で若い店員を罵倒しはじめた。

 できすぎのようだが、すべて嘘偽りのない実話である。つまり事態は、「中高年男性の反乱」的な見方で片づけられるようなものではないのだ。おそらく、もっと根が深いのだ。

 決して否定したいわけではない。読んでよかったと感じたし、出るべくして出た作品だとも感じる。だからこそ、もう少し掘り下げて欲しかったという思いが残ったことも否定できない。


『中高年がキレる理由』
 榎本博明 著
 平凡社新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏のメキシコ・カナダ向け25%関税、輸入原

ワールド

イスラエルとレバノンが停戦合意、27日発効 米大統

ビジネス

米11月CB消費者信頼感111.7、16カ月ぶり高

ワールド

カナダ首相、米関税巡り州と協議へ トランプ氏主張に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...日建ハウジングシステムの革新
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 6
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 7
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 8
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中