中高年男性がキレる理由がわかった!(けれども......)
そんな言葉が、多くの中高年男性が溜め込んできた思いをますます爆発しやすくさせるのだと著者はいう。たしかに一億総活躍社会という発想は、私の目から見ても「笑えないお笑い」でしかない。ただ、ちょっと引っかかる部分もある。本当に議論すべき問題は、「その先」にある気がしてならないのだ。
本書の大部分は中高年がキレる理由の解釈に費やされており、そこに書かれていることは納得できることばかりである。しかし、ただ彼らに共感するだけでは、なんの解決にもならないはずだ。
つまり「キレる理由」を検証したのであれば、そのあとに続くべきは「キレなくてすむような手段」を提示することであろう。読み進めながらその部分に早くたどり着きたいと感じたし、たしかに第6章では、そのための策が講じられている。ただ、そこに書かれているのは「ひと呼吸置く」とか「ネガティブな思いの反芻グセを直す」とか、あるいは「ストレスコーピング(いわゆるストレス解消)の実践」など、誰にでも考えつくようなことばかりである。
もっと、「そうか、そういう考え方もあったか!」と思えるようななにかにたどり着きたかったのだが、残念ながらそこが本書には欠けている。また、「中高年」といいながら、実際には「中高年男性」だけのことしか書かれていない点も気になった。
なぜならキレる傾向にあるのは、必ずしも男性だけではないからだ。事実、冒頭のエピソードから数週間後のつい先日、設定の仕方を教えてもらうため携帯ショップを再訪すると、今度は40代くらいの女性が大声で若い店員を罵倒しはじめた。
できすぎのようだが、すべて嘘偽りのない実話である。つまり事態は、「中高年男性の反乱」的な見方で片づけられるようなものではないのだ。おそらく、もっと根が深いのだ。
決して否定したいわけではない。読んでよかったと感じたし、出るべくして出た作品だとも感じる。だからこそ、もう少し掘り下げて欲しかったという思いが残ったことも否定できない。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。