事業に必要な人を口説き落とせる、それが本当のリーダーシップ
課題を設定して解決を図る逆算思考を重層的に組み合わせていく
どんな事業も思いがけない展開を見せたり試行錯誤の連続だったりしますけど、社会構造を変えたいという課題をまず的確に理解した上で、その解決のために何をすべきかという逆算思考は大切にしています。
そこから導き出されたのが「出口作り」「入口封じ」「啓発」という事業の3本柱なんです。計画を前提に、何ができるか、何が近道かを考える。私たちの場合は、その上でさらに問題と問題を掛け合わせていきます。ホームレス問題の解決だけでなく、HUBchariだったら自転車問題も解決できるし、HUBgasa(ハブガサ)*** ならビニール傘が年間1億3,000万本消費されるという廃棄物問題や環境問題も射程に入れることができる。こういう発想が問題の根本的な解決、社会イノベーションにつながるように思います。
人と人とのつながりの中で自然と信頼が獲得できた
ただ、私たちはイノベーションや社会貢献はあまり意識していなくて、路上生活から脱出するときの選択肢を幅広く提供することを一番大切にしています。選択肢が多くあった方が響くものがあると思うんですね。路上脱出のきっかけになるものは千差万別で、どこにその人のスイッチがあるかは一概に言えませんから。
例えば、あるおっちゃんはぼさぼさの長髪を無造作に結んでいて、面接時の印象がよくないから髪を切ったほうがいいと言っても、かたくなに切らなかったんです。あるとき、その人とホームレスの啓発活動の一環で愛媛へ講演に行ったら、おっちゃんはその足でお墓参りに向かったんですね。
おっちゃんはかつて車いすの女の子の登下校をボランティアで手伝っていたのですが、その子がおっちゃんの結んだ髪を「しっぽ」と触って遊んでいたそうです。その子が亡くなって初めてお墓参りが叶って、墓前で髪を切ることを報告できた。そこでようやくおっちゃんは髪を切ることを自分に許したんでしょう。愛媛から帰ってすぐ散髪して、就職活動を経て仕事を見つけられました。そういうケースもあるんです。
もちろんHUBchariやHUBgasaのような中間的就労の場の提供が功を奏するケースも多くありますが、いずれにしろ一方的な押し付けで自立を促すのではなくて、おっちゃんたちに寄り添いながら自立を見守っていきたいと思っています。そういう心掛けで、人と人とのつながりの中で自然と地域での信頼も獲得できてきたという感じでしょうか。今は梅田のおっちゃんたちはほとんど私たちのことを知ってくれています。1人ひとりと誠実に向き合ったら、それが伝播していくのだと思います。