最新記事

格差

世界人口の半分と同じ富が62人の富豪に集中

成長の果実がすべて強者に吸い上げられてしまう経済はどこかがくるっている

2016年1月18日(月)16時00分
ルーシー・ウェストコット

不公平 世界の半分の富を握るのは、このバスの定員より少ない富豪 MaxOzerov-iStock

 格差も極まれり。貧困問題に取り組むNGOのオックスファムは最新の報告書で、世界ではわずか62人の富豪が、最貧層35億人分と同じだけの富を所有しているという。

 この62人の昨年の富は1兆7600億ドルに上り、世界人口の半分以上を合わせた額を上回った。2010年には、世界人口の半分と同じ富を独占していたのは388人の富豪だった。この1年で富はますます少数に集中し、今では二階建てバスの定員にも満たない人数になっている。

 富裕層の富は2010~2015の間に44%増大。これはざっとカナダのGDPと同じ額だ。富の集中と租税回避地に隠された推定7兆6000億ドルの資産のおかげで、世界的な貧富の格差は「過去例をみない極端さになりつつある」と、同リポートは警告する。

「社会契約」が破綻

「金融危機と世界大不況の後、経済は再び回復しはじめている。これは喜ぶべきことだと誰もが思っている。だが、所得の成長や富の成長を実際に手にしているのは少数の大金持ちだけだ」と、オックスファムの政策責任者、ウェイン・クリプケは本誌に語った。「労働者階級と貧困層は成長の果実を得ていない。ということは、経済のどこかが決定的にくるっている。ルールに則って一生懸命働けば報われる、という社会契約説が破綻している」

 オックスファムの驚くべき報告書は、今週開幕する世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に向けて準備された。政財界の大立者や有名人、いわば資本主義の支配者たちがスイスのリゾートに集まり、今年のテーマであるAI(人工知能)や激動のマーケットについて話し合う。

 富の格差を是正するには、世界の指導者たちが労働者の生活に必要な最低限の賃金を支払い、職場での男女平等を推進しなければならないとオックスファムは言う。租税回避地の廃止にも取り組む必要がある。

 昨年のダボス会議の前には、オックスファムは、所得格差が放置されるなら世界の富裕層1%の富が残り99%の富を2016年までに上回ってしまうと警告した。今やこのシナリオは現実になりつつある。

極度の貧困は半減したが

 世界有数の金持ちの多くの純資産は今や、複数の国家を合わせたより大きくなっている。マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツの純資産は推定792億ドルで、ベラルーシとスリランカのGDPを合わせたより多い。メキシコの実業家カルロス・スリムの純資産は、レバノンとウルグアイを合わせたより多い771億ドルだ。

 世界的な貧富の格差の広がりの原因の1つは、経済システムが権力者だけを利するような仕組みになりつつあるからだとオックスファムは言う。2009年以降、アメリカのCEOたちの報酬は54.3%上昇し、一方で賃金は頭打ちだった。また米シンクタンクの経済政策研究所が昨年6月に出したリポートによると、CEOたちの稼ぎは30年前と比べて10倍になった。

 1990~2010年の間に、極度の貧困にあえぐ人々の数は半分に減ったと、国連は言う。それでも尚、世界で8300万人以上の人々が極端な貧困の下に暮らしている。オックスファムは貧困層の減少を「進歩」と言いながらも、その間も各国の経済格差は拡大してきたと言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中