「ブッシュ王朝」を拒否した米世論2つの感情
イラク戦争への批判と既成政治への怒りは今や保守層にまで広く浸透している
意外な展開 一時は本命候補と見られていたジェブ・ブッシュは選挙戦から早々に撤退した Randall Hill-REUTERS
大統領選予備選の「第3ラウンド」は、3月1日の「スーパー・チューズデー」の行方を占う意味で、重要な位置づけがある。先週20日、その「第3ラウンド」として、民主党はネバダ州党員集会、共和党はサウスカロライナ州予備選が実施された。
民主党では、ヒラリー・クリントン候補が下馬評よりはやや優勢の「52.7%」対「47.2%」で、バーニー・サンダース候補を下し、サンダースの勢いはやや鈍った感がある。一方の共和党では、依然としてドナルド・トランプ候補が大差で首位を取り、マルコ・ルビオ候補が2位へと浮上した。
【参考記事】サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング
この「第3ラウンド」の大きな動きは、何と言っても共和党内の力関係に変化が生じたことだ。1位になったトランプは、ローマ法王との批判の応酬をしたり、FBIや裁判所の命令に反論中のアップル製品への「不買運動」を呼びかけたりと、相変わらず話題に事欠かない中で、32.5%の支持を集め、2位グループに10ポイントの差をつけて勢いを保っている。その一方で、2位以下のグループでは大きな変化が見られた。
まず2位に入ったルビオ(22.5%)だが、これはオハイオでの善戦後に「テレビ討論で同じ決めセリフを4回繰り返す」というミスを犯してニューハンプシャーでは大きく後退していたのが、完全に復活したという評価がされている。2位ではあったが、勝利宣言と言っても良い力強い演説には若々しいカリスマ性も感じられ、「共和党主流派のチャンピオン」という座を獲得したのは間違いない。
テッド・クルーズ候補についてはルビオと約1100票差という僅差の3位(22.3%)で、こちらの演説も「まるで勝ったかのような」力強さにあふれていた。だが、専門家の間では「南部の宗教保守票を固めきれないのでは、スーパー・チューズデーでの善戦は無理」という見方も強く、ほぼ同等の得票でありながら、ルビオとは明暗を分けたという評価が多い。
問題は3位以下で、ジェブ・ブッシュ(7.8%)、ジョン・ケーシック(7.6%)、ベン・カーソン(7.2%)の3名はいずれも1桁の支持率に沈み、上位3名からは大きく引き離された。そして、序盤戦で大本命という見方もされていた、ジェブ・ブッシュ(前フロリダ州知事)は、この結果を受けて選挙戦の「停止」を表明。事実上、撤退した。
知名度も政治的実績も抜群のジェブ・ブッシュが、どうしてこのような結果に終わったのだろうか?
一つには、自分の持ち味をいかすことができなかったという、選挙戦術の問題があるだろう。ジェブは、兄のジョージ・W・ブッシュと比較すると、むしろ父のジョージ・H・W・ブッシュに近い知識人であり、国際感覚も豊富な人物だ。しかしその持ち味を選挙戦を通じて浸透させることはできなかった。
特に最後のサウスカロライナでは、兄の前大統領夫妻から、元ファーストレディの母親まで動員しての「ファミリー選挙」を繰り広げたが、保守票欲しさの「下心」が見透かされ、空回りに終わっている。最後になって、コンタクトレンズを使ってメガネを外し、「イメチェン」を図ったものの効果はなかった。
ジェブ敗北の背景には、世論の「ブッシュ王朝への拒否反応」がある。そのような総括ができるだろう。そこには今のアメリカ世論が抱える2つの感情が浮かび上がってくる。