中台トップ会談――軍事パレードによる威嚇も効果なく
なぜなら、ここまでして威嚇したのに、台湾国民は逆の方向に動き始めたからだ。軍事パレードの脅しは効果を発揮しなかった。
特に国民党が総統候補として立てていた洪秀柱氏(67歳、女性。立法院副院長)が、タブーとされていた「統一問題」に言及してからは、国民党はガタガタと崩れ始めた。洪秀柱氏は、「中華民国の憲法から言っても、台湾は最終的には(大陸と)統一しなければならない」などと発言し不評を買ったからだ。
そこで、10月7日、国民党は次期総統候補として洪秀柱氏を立てないで、国民党の朱立倫主席に立候補することを決めた。
この迷走がさらに国民党離れを台湾国民に促し、民進党の蔡英文候補の総統当選は、ほぼ確実になりつつある。
シンガポールを選んだわけ――「92コンセンサス」
そこで、習近平は7日にシンガポールを訪問して、馬英九総統と会談することを決定した。
シンガポールを選んだのは、1993年に初めて両岸(中台)代表が「92コンセンサス」に沿った会談を行なった場所だからである。
「92コンセンサス」とは「一つの中国」を共通認識として、独立を主張せず、互いに経済文化交流を促進していこうという主張である。この「中国」に関する定義は、大陸と台湾が各自イメージすればいいということになっている。
「92コンセンサス」による「両岸平和統一」を宿願としている北京政府は、そのスタート地点であったシンガポールを、1949年以来、66年ぶりの「両岸トップ」の会談場所に選んだわけだ。
したがって話し合う内容は「92コンセンサス」の再確認と、大陸の対台湾経済支援といったところだろう。
経済に関して大陸を頼るしかない方向に台湾を引き込んできた北京政府としては、ここでもまた「チャイナ・マネー」による力を発揮させようとしている。
しかしチャイナ・マネーによる効果は、どこまであるだろうか?
台湾国民は、特に若者は、「銭」よりも「尊厳」を求めているのだ。特に大陸と関係なく台湾で生まれ育った若者たちの「本土意識」は強い。
今のうちにトップ会談のメカニズムを創る
もう一つの習近平側の目的は、北京政府寄りの馬英九政権の間に、早いとこ、「トップ会談の枠組み」を作ってしまおうという魂胆もある。
民進党の蔡英文が総統になってしまえば、彼女は「習近平とは会わない」と、会談を拒絶するだろう。だから、どの党の誰が総統になっても、日中韓首脳会談のような「枠組み」に填め込んでしまおうという思惑がある。なんとしてでも、独立の方向には行かせない。
そのための戦略だ。