最新記事

中国

文革に翻弄された私の少年時代

2015年9月3日(木)17時15分

 母の肖敏蓉(シャオミンロン)は父より5歳年上だった。長沙の紡績工場を経営する資本家の娘として生まれたが、実は正妻の子ではなく、私の祖父にあたる資本家がお手伝いさんに産ませた子供だった。それでも、母は大事に育てられた。まだ中国が貧しく混乱した国民党の時代に、女性でありながら内陸の中心都市、重慶(じゅうけい)市の師範学校に2年間通ったというのだから、そのお嬢さまぶりがわかるというものだ。私が小さい頃、家には立派な家具がたくさんあったが、それらはどれも母が実家から持ってきたものだった。

 当時、長沙は日本と戦争をしていた国民党が支配しており、適齢期を迎えた母は、支配者だった国民党員の小学校校長と結婚した。金持ちの娘と支配層エリートという当時の理想のカップルだが、この結婚がのちに母の人生、そして、われわれ一家に重くのしかかる。

 国民党との内戦に勝利した後、1949年頃に共産党が中国全土で支配を確立すると、当然、長沙にも新しい"主人"である共産党がやってきた。私の父も、そのひとりだった。

 共産党の登場は、母に不幸をもたらす。前夫は何も罪を犯していなかったにもかかわらず、共産党の秘密党員だった副校長に告発され、刑務所に送られてしまった。母は、やむなく離婚。長沙から南に150キロほど離れた衡陽(こうよう)市の親戚の家に移り住んだ。

 その後、母は知人の紹介で私の父と知り合う。父は約3年間、人民解放軍に所属して兵士として戦った後、長沙にやって来て師範大学で勉強していた。軍人ながら達筆で、小説も書く文人気質の父を、軍が特別に選んで大学に送り込んでいたようだ。本来なら、2年の学習期間が終わると別の地方の部隊に異動しなければならなかったが、母と出会い、なんとか理由を作って長沙に居座ったらしい。

 父は、共産党の政権下では「経歴がいい」人物である。きっと、若い女性にかなりモテたはずだ。それが5歳も年上、しかも、前夫との間に2人の子供がいた母を好きになり、結婚した。息子の私が言うのも何だが、母はそれほど魅力的だった。彼女の写真を今も時折見返すが、私とそっくりのくっきりとした目鼻立ちで、笑うと実にチャーミングな人物だった。

 見た目だけではない。母は国語教師として、当時、中国で深刻な問題だった文盲(文字の読み書きができない人のこと)をなくすことに力を尽くす人でもあった。今になって思えば、父の文人としての才能は作家としての私に、そして、母の社会に貢献する意思は、政治家としての私に引き継がれているように思える。

 結婚した後、両親の間には私を含む2男1女が生まれた。母が前夫との間にもうけた1男1女とともに家族7人、まずまず幸せに暮らしていたわが家に突然襲いかかったのが、文革の嵐だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トタルエナジーズがアダニとの事業停止、「米捜査知ら

ワールド

ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォル

ビジネス

英インフレ上振れ懸念、利下げ段階的に=ロンバルデリ

ワールド

ルーマニア大統領選、12月に決選投票 反NATO派
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中