最新記事

特集

日本人と英語

「英語ができる日本人」という明治以来の悲願がかなわないのは完璧さへの執着を断ち切れず英語と対等に向き合えないせいだ

2011年5月18日(水)15時11分
井口景子(本誌記者)、アンドルー・サルモン(ソウル)

今度こそ! 楽天ショックで再び英語熱が高まっている Stockbyte/Getty Images

 ある有名経済誌に、日本の若者の英語力を憂う財界人の提言が寄せられた。「国際ビジネスに携わるにはまず外国語を巧みに操る必要がある。教師の質の向上と学生の努力が必要であり、1クラスの人数を減らすのも一案だ。文法ばかり重視して実践練習を怠っていては畑の真ん中で泳ぎ方を研究するようなものだ」

 2011年の話? いや、これが書かれたのは日露戦争直後の1907(明治40)年。国際貿易と外国人居住者の急増に押されて、実践的な英語力のニーズが劇的に高まった時期だ。

 日本が英語学習熱に沸いたのはこのときだけではない。西洋文化が一気に流入した明治維新期、鹿鳴館が落成した明治中期、ラジオ英会話が大人気を博した第二次大戦直後、日本企業がアメリカのビルを買いあさったバブル期、90年代以降のグローバル化時代──。

 今や外国でショッピングを楽しむ程度の英語力は多くの人が身に付け、異文化の経験値も確実に上がっている。だが、100年前の財界人が切望した「英語で仕事ができる日本人」の夢がかなったかと聞かれれば、何とも心もとない。

 会話力の重視や数学などの科目を英語で教える試み、公立小学校への英語授業導入など「いま話題の取り組みはほぼすべて明治時代に試されている。なのに日本人は失敗に学ばず、同じ問題に悩んでいる」と、英語教育史に詳しい和歌山大学の江利川春雄教授は言う。

 これまで成功しなかったのは必要がなかったから、とも言える。日本は植民地経験がない単一言語国家で、巨大な国内市場があるため経済の外国依存度も低い。「日常的なニーズがなく、言語系統的に母語と関連性がない外国語を、国民の大多数が身に付けた例は世界中どこにもない」と、東京学芸大学の金谷憲教授(英語教育学)は言う。英語に対して「アイドルを追い掛けるような憧れは強いが、自分がアイドルになるために本気で努力する人は多くない」。

 だが今や英語はパソコンと並ぶ人材の基本スペック。地球上の40億人が使う世界共通語に憧れているだけでは、グローバルビジネスの土俵に上がることすらできない。...本文続く

──ここから先は5月18日発売の『ニューズウィーク日本版』 2011年5月25日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

カバー特集「日本人と英語」は、苦手意識を克服するための新発想を追求したラインアップ
■「簡易英語」徹底攻略ガイド
■対中ビジネスも中国語より英語の時代
■英語会議を乗り切る7つの基礎知識

特集以外にも、本誌でしか読めない記事が満載
限界に達した被災者の「我慢」
■ビンラディン後を担うタリバン最凶戦士
■ナタリー・ポートマン、迷走の女優人生......

<最新号の目次はこちら

[2011年5月25日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中