日本の女性を息苦しさから救った米国人料理家、日本で寿司に死す
写真:吉田貴洋(コルプ)
<前作『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』がベストセラーとなったキャスリーン・フリンが、日本を訪れ、寿司職人や築地の元競り人に習い、読者とキッチンに立ち、本を書いた。いったい何のために?>
ここ数年、日本で「家事としての料理」に頭を悩ませる人たちを中心に支持を集めている米国人料理家をご存じだろうか?
2017年に著書『The Kitchen Counter Cooking School: How a Few Simple Lessons Transformed Nine Culinary Novices into Fearless Home Cook』が邦訳『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)として刊行され、たちまちベストセラーとなったジャーナリストで料理家のキャスリーン・フリンである。その彼女が、新作『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』(CCCメディアハウス)を上梓した(6月1日発売、いずれも筆者訳)。
『サカナ・レッスン』は翻訳書ではなく、日本オリジナルの企画だ。キャスリーンが今回、日本の読者に向けた作品を書き下ろしたのは、前作を読んだ人たちの声に応えたいという強い思いに衝き動かされたからだった。彼女と遠い日本の読者との間に心のつながりが生まれた瞬間の様子が、『サカナ・レッスン』には綴られている。
読者がハッシュタグを使って、料理に関する彼らの思い、経験談、そして写真を投稿してくれていた。焼き上がったパンやローストチキンの写真と一緒に喜びの感想をつぶやく人たちのタイムラインをわたしは見ていた。(中略)早朝六時、わたしはパソコンの前に座り込んで、感激のあまり涙を流していた。どうやってこの人たちにノーと言える? 言えるわけないでしょ。
ここに至るまでの彼女の話をしておこう。アメリカで最も愛された料理研究家といえばジュリア・チャイルド(1912-1994)である。その独特な語り口調と大胆な料理手法は、今でもアメリカ人から熱烈な支持を得ている。キャスリーンは長年にわたって、このジュリア・チャイルドを敬愛し、彼女の前向きな料理への姿勢を現代に継承しようと奮闘し続けてきた経緯がある。
多くの媒体に寄稿しながら、キャスリーンは料理を苦手とする人たちを対象とした料理教室を開催し、家庭の台所というきわめてプライベートな空間だからこそ露呈する個人の葛藤に寄り添ってきた。
ジュリア・チャイルドがパリの名門料理学校ル・コルドン・ブルーで料理を習いはじめたのは、彼女が32歳のときだった。一方、キャスリーンがそれまでのキャリアを捨て、単身パリに渡り、ル・コルドン・ブルーの門を叩いたのは彼女が36歳のときだ(その経験は、『36歳、名門料理学校に飛び込む!――リストラされた彼女の決断』〔柏書房、2012年〕に綴られている)。
パリから帰国後、シアトルとフロリダを行き来しながら、精力的に食と食文化について研究を重ねたキャスリーンは、その過程で数多くの料理界のセレブリティーと知り合うことになる。