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訂正-〔アングル〕日本の起債市場、復調の兆しもなお薄氷 ブリヂストン債半減

2025年04月17日(木)17時57分

 4月17日、トランプ米政権の関税が世界の債券市場を揺るがし、日本でも起債の延期・中止が相次ぐ中、住友ゴム工業の5年債が増額・条件改善で発行されるなど一部で明るい兆しが見え始めた。写真は円紙幣。2017年6月撮影(2025年 ロイター/Thomas White)

(2段落目の住友ゴム債の発行総額を「250億円」から「200億円」に訂正します。)

Miho Uranaka Anton Bridge

[東京 17日 ロイター] - トランプ米政権の関税が世界の債券市場を揺るがし、日本でも起債の延期・中止が相次ぐ中、住友ゴム工業の5年債が増額・条件改善で発行されるなど一部で明るい兆しが見え始めた。一方、市場の回復度合いを測る試金石として注目されているブリヂストン債は中止にこそなっていないが、額は期待されていた規模の半分にとどまり、なお薄氷を踏む状況であることを浮き彫りにした。

「住友ゴム工業の5年債が増額された上、タイトサイドで決まった」。15日夕方の債券市場では、5年と10年合わせて総額200億円(訂正)と小粒ながらも事業債が無事に条件決定を迎え、条件も改善したことから、証券会社の債券関係者から安どの声が聞かれた。「徐々に投資家との対話もできるようになってきている」と関係者の1人は話す。

起債市場が浮上の道を模索する中、リトマス試験紙として注目を集めていたのがブリヂストンの起債だった。発行額はもともと1000億円超が見込まれ、格付けはダブルAプラス(R&I、JCR)。市場関係者は「こうした高格付けの企業がしっかりと需要を集められれば、起債市場が改善していく姿がみえてくる」(市場関係者)と話していた。

水面下で需要を調査していた同社の起債は、今週が延期か継続かの判断の山場となる見通しだったが、証券関係者によると17日に、3本あった年限のうち7年債の起債を止めた。総額も500億円程度まで減額した上で、需要調査を続行している。

市場関係者からは「残念ながら全員参加型のディールにはなっていないものの、ボラタイル(変動幅が大きい)な環境ながら完全なリスクオフにはなっていないことが確認できる」との声が聞かれた。

ブリヂストンはロイターの取材にコメントを控えた。

<起債市場に8000億円の影響も>

米国の関税政策を巡る混乱で、金融市場はリスク回避の動きが強まり金利が低下。低い利回りでは需要が高まらず、4月に入ってからこれまで起債を延期・中止した日本企業は10社を超える。今週に入っても、ヤマハ発動機や東京電力パワーグリッドなどが延期や中止を決めた。

関係者によると、ロットの大きな注文を出す年金基金が一斉に取引を手控え、通常動きのある機関投資家のうち7割程度が様子見姿勢を示す案件もみられているという。

みずほ証券で債券業務を担当する小出昌弘執行役員は、「トランプ関税」による今月の起債市場への影響を7000-8000億円と見積もる。投資家の目線に対して「スプレッドの調整がまだ追いついていない可能性がある」とした上で、市場の正常化に向けては「ボラタイルな市場が落ち着き、一般債の適正価格の再形成を丁寧に進めていかなければならない」と話す。起債の中止を決めた企業の中には、融資による資金調達へ流れた向きもあるとした。

トランプ大統領は4月2日に一律10%の相互関税を発表後、対米貿易黒字が多い国に対する上乗せ分については90日間延期することを決めた。各国とも米国との交渉を模索しており、日本は17日に赤沢亮正経済再生相がワシントンでトランプ大統領やベッセント財務長官らと協議した。

大和証券デット・キャピタルマーケット第3部の大津大副部長は、「関税が延期された90日後に何が起きるか分からず、また予想外のニュースが飛び出す可能性もある。不透明感が残る限り、市場が完全に戻ることはない」と指摘する。投資家は当面リスクプレミアムを大きめに見積もり、企業もそれに応じて厚めのスプレッドを支払う必要があるとみる。

<世界の混乱からは一定の距離も>

世界的な市場の混乱とは対照的に、ソフトバンクグループ(SBG)が発行を予定する総額6000億円の個人向け社債は、申告段階で、SBGの広報担当者は、「リテールからの需要はおう盛。既に予約完売した証券会社もある」とした。

「金利ある世界」の到来により、仮条件で年利3─3.6%のクーポンが見込めるSBG債は、預金と比較して投資妙味が増していることが背景にある。

米国と比べて規模が小さい日本の社債市場は、投資家の多くを国内の機関投資家が占め、海外投資家の関与が限定的だったことから、米国ほど深刻な影響は受けなかったとの見方もある。実際、海外で事業債の新規発行が停止する中でも、日本では日本航空や大和ハウス工業による劣後債が成立している。

ただし、市場規模の小ささが最悪の事態を回避させた一方で、今後の回復局面では、投資家層の厚みに差があることから、米国に比べて回復が遅れる可能性を指摘する声も出ている。

(浦中美穂、Anton Bridge 編集:久保信博)

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