最新記事
起業

衛星データとAIで開発途上国に農業改革を──「子どもが夢を語れない現実」にテクノロジーで立ち向かう若き起業家

2023年9月21日(木)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載
サグリ株式会社のCEO坪井俊輔氏

サグリ株式会社のCEO坪井俊輔氏

<人工衛星のデータをAIで解析し、農業の課題解決に挑む、サグリ株式会社創業者の坪井俊輔氏。世界展開を目指す若き起業家が語る、テクノロジーの可能性とは>

貧困のループを目の辺りにし開発途上国の農業改革を決意

坪井氏が率いるサグリ株式会社が提供するサービスは3つ。自動生成した農地の区画情報を活用し、土壌の状態や作物の育成状況の把握など土壌解析を効率化する「Sagri(サグリ)」、耕作放棄地を可視化する「アクタバ」、田畑の農作物の情報を把握する「デタバ」だ。これら衛星データとAIを活用したアプリケーションは、多くの人員と時間がかかる作業を瞬時にしてデータ化。アクタバに至っては、調査工数の9割を削減し、すでに複数の自治体で正式導入されている革新的な技術だ。

 

IT分野で活躍する坪井氏だが、初めて起業したのは、小学生から高校生が宇宙の魅力を学ぶ宇宙教室を企画する教育事業だったという。「小さい頃から『宇宙飛行士になりたい』と、いつも夢を語っていました。同じように、子どもたちにも大きな夢を見ていてほしいのです」。坪井氏が立ち上げた株式会社うちゅうは、ロケットや人工衛星、月面開発などを題材に、宇宙に関するさまざまな学びの場を提供した。

スリランカでロケット教室を行う坪井氏

株式会社うちゅうではスリランカでロケット教室を行うなど、世界中で活動した

2016年、事業で訪れたアフリカのルワンダでの体験が大きな転機となる。「ルワンダの農業従事者は生きるための最低限の収入しか無く、貧困のループが代々続いている。子どもが夢を語れないその状況に、開発途上国における農業改革の必要性を強く感じました」

この頃、偶然にもEUの地球観測プログラム「コペルニクス」が、大気や陸域、気候変動など衛星の観測データを民間への無償提供を開始する。工学部出身で、うちゅうの事業で衛星についての知見がある坪井氏にとっては、千載一遇のチャンスであった。

熱心にインタビューに答える坪井氏

身振り手振りを交え、熱心にインタビューに答える坪井氏。その情熱は、宇宙に憧れた子ども時代から変わっていない

衛星データを用いた農家への小額貸付事業

農地管理アプリ「Sagri」の開発でインドの農業現場を視察した際に発案したのが、農家への小額貸付事業だった。信用が無く肥料や農薬代の融資を受けられない農家は「Sagri」が算出した収穫見込みデータを材料に、金融機関から融資を受けるというビジネスモデルだ。アプリのローンチ後に2,000件もの申請があったものの、初の試みのため金融機関からの貸付は不発に。コロナ禍で事業は中断していたが、現在は再び銀行からの融資を取り付けようとしている。また、インドやケニアで農業支援を行う企業と提携するなど、海外での導入も進んでいる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中