「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料理研究家が考える理想の食事と生命の法則
【「ウンチの主成分」は自分自身の細胞の残骸】
それだけではない。
身体のあらゆるパーツは、ものすごい勢いで絶えず分解されている。
それは、古くなったから、使えなくなったからではなく、たとえできたてホヤホヤのパーツであっても、情け容赦なく分解され、捨て去られている。その分、摂取した食べ物の成分を使って絶えず再合成が行われている。つまり、かつ消え、かつ結ばれている。
では、私たちの身体のうち、いちばん速いスピードで、入れ替わっているのはどの部位だろうか。
それは消化管の細胞である。およそ2、3日で入れ替わる。だから、ウンチの主成分は、食べかすではなく、自分自身の細胞の残骸なのである。
つまり、食べることは、自分自身を作り変えることであり、自分の生命は、絶えず移り変わる流れの中にある。これを私は「動的平衡」と呼ぶ。絶えず動きながらバランスを作り直すこと。生命のもっとも本質的な姿である。
だからこそ生命は、リジリエント、つまり柔軟であり、適応的でありえる。病気になっても回復し、怪我をしても治る。
それゆえ、今日の私は昨日の私ではない。
数週間もすればかなりの部分が入れ替わっている。一年もたてば物質レベルではほとんど別人となっていると言っても過言ではない。久しぶりに知人に会ったら「おかわりありませんね」ではなく、「おかわりありまくりですね」と挨拶するのが正しい。
流れ行く生命の動的平衡の前では、よいことも、悪いことも、盛者も貧者もすぐに移り変わっていく。方丈記の詠むところそのものである。何かに固執することは意味のないことなのだ。
【なぜ自らを壊し続け、作り直し続けるのか】
ではなぜ、生命はそんなに一生懸命、自分自身を率先して壊し、そして、作り変えているのか。
それは、宇宙の大原則「エントロピー増大の法則」にあらがうためである。エントロピーとは乱雑さのこと。時間の経過とともに、あらゆるものは乱雑さが増える方向に推移する。
壮麗なピラミッドは風化し、金属は錆び、熱は拡散し、形あるものは崩れる。日常生活でも、エントロピー増大の法則を体感することができる。整理整頓しておいた机もすぐに書類が散らかってくる。
淹れたてのコーヒーもふと気がつくとぬるくなっている。熱烈な恋愛もやがては冷める......。
生命にも絶えずエントロピー増大の矢が突き刺さってくる。
細胞膜は酸化され、タンパク質は変性し、老廃物が蓄積する。この流れと戦う方法がひとつだけある。それは、エントロピー増大の法則に先回りして、自らを率先して分解し、絶えず乱雑さを外部に捨て、その上で作り直すことである。
細胞膜もタンパク質もものすごい速度で作り変えられている。