最新記事
食事と健康

「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料理研究家が考える理想の食事と生命の法則

2024年4月10日(水)16時55分
福岡 伸一(青山学院大学教授)松田 美智子(料理研究家) *PRESIDENT Onlineからの転載

【「ウンチの主成分」は自分自身の細胞の残骸】

それだけではない。

身体のあらゆるパーツは、ものすごい勢いで絶えず分解されている。

それは、古くなったから、使えなくなったからではなく、たとえできたてホヤホヤのパーツであっても、情け容赦なく分解され、捨て去られている。その分、摂取した食べ物の成分を使って絶えず再合成が行われている。つまり、かつ消え、かつ結ばれている。

では、私たちの身体のうち、いちばん速いスピードで、入れ替わっているのはどの部位だろうか。

それは消化管の細胞である。およそ2、3日で入れ替わる。だから、ウンチの主成分は、食べかすではなく、自分自身の細胞の残骸なのである。

つまり、食べることは、自分自身を作り変えることであり、自分の生命は、絶えず移り変わる流れの中にある。これを私は「動的平衡」と呼ぶ。絶えず動きながらバランスを作り直すこと。生命のもっとも本質的な姿である。

だからこそ生命は、リジリエント、つまり柔軟であり、適応的でありえる。病気になっても回復し、怪我をしても治る。

それゆえ、今日の私は昨日の私ではない。

数週間もすればかなりの部分が入れ替わっている。一年もたてば物質レベルではほとんど別人となっていると言っても過言ではない。久しぶりに知人に会ったら「おかわりありませんね」ではなく、「おかわりありまくりですね」と挨拶するのが正しい。

流れ行く生命の動的平衡の前では、よいことも、悪いことも、盛者も貧者もすぐに移り変わっていく。方丈記の詠むところそのものである。何かに固執することは意味のないことなのだ。

newsweekjp_20240410075132.jpg

And-One - shutterstock

【なぜ自らを壊し続け、作り直し続けるのか】

ではなぜ、生命はそんなに一生懸命、自分自身を率先して壊し、そして、作り変えているのか。

それは、宇宙の大原則「エントロピー増大の法則」にあらがうためである。エントロピーとは乱雑さのこと。時間の経過とともに、あらゆるものは乱雑さが増える方向に推移する。

壮麗なピラミッドは風化し、金属は錆び、熱は拡散し、形あるものは崩れる。日常生活でも、エントロピー増大の法則を体感することができる。整理整頓しておいた机もすぐに書類が散らかってくる。

淹れたてのコーヒーもふと気がつくとぬるくなっている。熱烈な恋愛もやがては冷める......。

生命にも絶えずエントロピー増大の矢が突き刺さってくる。

細胞膜は酸化され、タンパク質は変性し、老廃物が蓄積する。この流れと戦う方法がひとつだけある。それは、エントロピー増大の法則に先回りして、自らを率先して分解し、絶えず乱雑さを外部に捨て、その上で作り直すことである。

細胞膜もタンパク質もものすごい速度で作り変えられている。

カルチャー
手塚治虫「火の鳥」展 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中