最新記事
食事と健康

「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料理研究家が考える理想の食事と生命の法則

2024年4月10日(水)16時55分
福岡 伸一(青山学院大学教授)松田 美智子(料理研究家) *PRESIDENT Onlineからの転載

【食べ続けても、急に病気にはならないが...】

この数字からわかるように、ナイアシン以外は、どれも基準量に満たない。もしチーズバーガーだけで、ビタミンCを取ろうとすると、基準量に達するには100個食べなければならないことになる。オーバーカロリー、オーバー食塩になってしまう。

この計算をカップラーメンで行うと同じような結果が出る。

もちろん、摂取基準量は安全率が掛けてあるので、基準を下回ったからといって、すぐに脚気や壊血病などのビタミン欠乏症状が出ることはない。

とはいえ、これらの人気ファストフードは、人々の嗜好しこうを刺激し、インパクトのある濃い味付けになっている(つまり塩味が強い)ので、その場の食欲を満たすことはできても、栄養面で見ると極めてバランスのわるい食品といえる。

カップラーメンやハンバーガーだけを食べ続けても、急に病気になったり、栄養失調になったり、あるいは生命に危険が及ぶことはない。一方で、このような食材を食べ続けることは、生命の〈動的平衡〉を乱すことになるだろう。

newsweekjp_20240410074634.jpg

VasiliyBudarin - shutterstock

【食べることは、生きることそのもの】

食を考えるとき、忘れてはならない重要な視点がある。

それは〈動的平衡〉の視点である。動的平衡とは、私の生命論のキーワードとなる概念だ。

先に、(カロリーの補給は)「自動車にガソリンを入れるようなものである」と書いた。しかし、これはあえてこう書いたものの、実は、誤った見立てなのである。食べることは、単に、カロリー(エネルギー源)を補給するだけの行為ではない。食べることは、生きることそのものなのである。

それは、どういうことか。

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

ご存知、中世期の古典、鴨長明による『方丈記』の冒頭の一節である。これほどみごとに生命のありようを活写した表現を私は知らない。

私たちの身体でもこれと同じことが絶えず起きている。

私たちは食べ物と身体の関係を、ガソリンと自動車の関係と同じものだと捉えがちだが、それは正しくない。食べ物は、摂取されると、大半は全身の細胞に散らばって、そこに溶け込んでいってその一部となる。

つまり、ガソリンと自動車のたとえに戻れば、ガソリンの成分が、自動車のタイヤ、窓、座席、エンジンのネジなどに成り替わっていく──という奇妙なことが起きていることになる。

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中