「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料理研究家が考える理想の食事と生命の法則
【「あらがい」のために食べ続ける】
生命が、相反する二つのこと、分解と合成を同時に行っているのはそのためであり、このバランスを私は動的平衡と呼ぶ。つまり、生命だけがエントロピー増大の法則と戦うことができ、戦うことができるものを生命と呼ぶことができる。
とはいえ、動的平衡による生命のこの努力も、宇宙の大原則を完全に覆すことはできない。徐々に退却を余儀なくされ、すこしずつエントロピーは増大していく。身体の酸化は進行し、変性タンパク質は沈着し、遺伝子にも少しずつ変異が蓄積していく。
これが老化である。ついにはエントロピー増大の法則に打ち負かされる。死である。
しかし、最後は負けてしまうことがわかっていても、必死にあらがっているのが生命というものなのである。それゆえにすべてのいのちはけなげで美しい。そして有限であることがいのちを輝かせている。
私たちは、この〈あらがい〉のために食べ続けなくてはならない。そして、正しくあらがうためにこそ、正しく食べなくてはならないのである。
(出所=福岡伸一、松田美智子『生物学者と料理研究家が考える「理想のレシピ」』)
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